人生万事塞翁が虎 ページ5
川から引き上げた人物は予想通り太宰さんであった
「あの……この人大丈夫ですかね…」
『んー…大丈夫だと思うよほら』
不安げに太宰さんを覗き込む少年に答えるように太宰さんは上体を勢いよく起こす
その勢いの良さに少年が驚愕するが本人は残念そうに一言
「助かったか………ちぇっ」
感謝の気持ちの欠片もない。まあ彼にとっては死ぬことが本望なのにそれを邪魔されたから仕方がない
「君かい?私の入水を邪魔したのは……それともAからの差し金かい?」
「邪魔なんてそんな、僕たちは助けようと……入水?Aさん?」
「知らんかね入水。つまり自 殺だよ
それとAというのは君の隣にいる彼女の名前さ」
『差し金なんて大層なものではないですよ。私は唯流れてきたものを拾っただけですから』
愕然とする少年にふふっと笑って見せてから私は彼に手を差し伸べる
『始めまして、私が室生Aです。宜しくね』
「は、はあ…」
『それより、助けてもらったのに彼にお礼の一つもないんですか?』
握手を交わしてから太宰さんに聞けば確かに。彼は首を縦に振る
「人に迷惑をかけない清くクリーンな自 殺が私の信条だ。
だのに君に迷惑をかけた、これは此方の落ち度。何かお詫びを__」
不意に太宰さんの声を遮る音がお腹から鳴った
それは少年から鳴っているようにも聞こえた
…そういえばお腹空いてるんだったね
「空腹かい?少年」
くすり、微かに笑った太宰さんに少年は咄嗟にお腹を押さえるけどもう遅い
「じ、実はここ数日何も食べてなくて…」
二度目のお腹が鳴る音。だが、次は少年からではなく他の方向…太宰さんから聞こえた気がした
「私もだ。ちなみに財布も流された」
「ええ?助けたお礼にご馳走って流れだと思ってたのに」
「?」
「?じゃねえ!!」
この少年、以外と突っこみが上手いなあ
これは面白い子に会った。やっぱり非番の日っていいなあ
「そうだ、それならAに奢ってもらおう」
『今は手持ちに奢れるほどのお金を持ってないんですよ…』
紙袋を揺らして存在感を示せばああ、と太宰さんは納得してくれた
「また乱歩さんの為に買い出しかい?」
『それだけではないんですけど…まあそんなところですね』
苦笑を溢すと対岸から聞き覚えのあるおおーいという声が聞こえてきた
「こんな所に居ったか唐変木!!」
太宰さんを捜しに来たのは国木田さんだ
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2018年7月7日 17時