冗談 ページ21
誰かがAの名を呼んだ。
刹那、一筋の光が無限に広がる千里眼の世界に差し込む。
その光の方へ意識を戻して行くと懐かしい空気に包まれた。
意識を体に戻す感覚と共にハッと顔を上げる。
貴女「どうして・・？」
君がここにいるの？
そう問いかける前に相手は、
沖田「追いかけてきちゃった。」
と苦笑しながら答えた。
思わずAも苦笑を返して沖田の名を呼ぶ。
貴女「もっと安静にしててほしいよ総司君。
けど、会えて嬉しい。」
その言葉に沖田の苦笑は微笑に変わった。
愛おしそうに沖田の腕が強くAを抱きしめる仕草に彼はふと気がついた事がある。
貴女「あれ・・？」
自分の体は地面に仰向けになっていて、下半身はそのまま地面についていた。
だが上半身を沖田が抱き起こされている姿勢だという事を知ると、カーっと顔が熱くなる。
貴女「あ、あれ！僕、どうして・・！？」
慌てて沖田の腕から離れると、彼から少し距離をとった。
顔が熱い。
きっとすごい顔をしている。
言われずともそんな事は分かってしまった。
沖田「安静にするべきなのは君の方なんじゃないの？
こんな真冬に神社の境内で寝るなんて正気の沙汰じゃないよ。」
貴女「ね、寝てないから！」
余計に顔が熱くなる。
こんなに取り乱すのはいつぶりだろうか。
突如、沖田に出会ったのが、こんなにも恥ずかしく、そして嬉しいなんて・・
『嬉しい』と自覚すればするほど、更に恥ずかしくなる。
沖田「助けてあげたのにその態度は傷つくなぁー
それとも僕の病気が移るのがそんな嫌？」
火照った顔のまま振り向くと、Aは沖田を睨んだ。
貴女「バカ・・」
沖田の二言目に彼が怒ったのだと気がついた沖田は申し訳なさそうに、
沖田「ごめん、からかいすぎちゃったね。」
と、今度は沖田が恥ずかしそうに顔を背けた。
Aはため息をついて沖田近くと、両掌で沖田の顔を挟んで顔を向かせた。
貴女「バカ・・」
今度は愛おしそうに告げると沖田は微笑んだ。
沖田「もう言わないから。」
その言葉にAも微笑むと、それを合図とするように沖田は彼に腕を回して抱きしめた。
日が暮れ始めた寒空だった。
よい思い出があるとは言えぬ江戸の故郷に畏怖していた心の氷が溶けてゆくようだった。
真冬の夕暮れ時、それなのに何も怖くなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 651人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
岬鬼(プロフ) - iwaさん＞お久しぶりです！戻って参りました。 少しずつですが、完結できるよう更新していきます。安定しない活動になるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします！ (2020年10月23日 19時) (
レス) id: 2999d52a99 (このIDを非表示/違反報告)
iwa(プロフ) - お帰りなさい。これからも無理しないでくださいね。 (2020年10月21日 21時) (レス) id: d46b647962 (このIDを非表示/違反報告)
岬鬼(プロフ) - kirinさん» kirinさん＞はじめまして！閲覧、コメントありがとうございます！以前から読んでいただけていたなんて、とても嬉しいです！これからも長く更新できない時期があったり、安定しない活動になるかもしれませんが、完結まで頑張って参ります！よろしくお願いします！ (2020年8月11日 16時) (レス) id: 2999d52a99 (このIDを非表示/違反報告)
kirin(プロフ) - はじめまして、初コメ失礼します。以前から読ませて頂いていまして、何度も読み返していたので更新再開されたとのことでとても嬉しいです！陰ながら応援しております！ (2020年8月11日 4時) (レス) id: dce83ecbd9 (このIDを非表示/違反報告)
岬鬼(プロフ) - iwaさん» iwaさん>ありがとうございます！なかなか安定した更新は難しいですが、努力していきます！気長にのんびり待っていてくださると嬉しいです！今後ともよろしくお願いします！ (2020年7月8日 23時) (レス) id: 17ab3ad94f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
