雰囲気だけの短編集。 (ページ1)

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短い片思い。ページ1

人少ない電車の中、静かにガタガタと揺れる振動が心地良いい。
私はここで一人座席に座り、そっと本を開く。
静かな場所で静かに本を読むのが私のお気に入りだ。

ただ。
ただ、だ。
この私の幸福の時間をジャマをする者が最近できた。

「こーのーみー、こんなとこにいたんだ。」

来た。

私は声の方へ顔を向けた。
この男は相変わらず私の目の前に立つ。いい感じに本に影ができまともに読めやしない。

「いつも座ってる場所が違うから毎日探すのが大変なんだぞ！このまえ木ノ実さがしてるときもさー、」

しかもこの男はうるさい。
人の気も知らずに。

(郁真のおしゃべりは一回始まったらなかなか終わらないからなー。。。)

「なあなあ、話変わるけど。」

「なに。」

「木ノ実っていっつも本読んでるよな、飽きねえの？」

好きで本読んでるのに飽きるなにもないよ。。。

私は「別に」とだけ返して影がかかった文章に視線を落とした。
彼は「ふーん」と返して無理やり私の横に座ってくる。

「ちょっと。。。！？」

「いいじゃん、立ってるの疲れた。」

二人用座席のはずなのに隣のやつの体格が良いせいで少しキツめだ。

まあ、影つくられるよりはいいか。。。

私は本を読むのを再開した。
郁真はそれを凝視する。

読みづらい。。。近い。。。。せまい。。。

「な、何よ。。。」

「難しそーなの読んでんだな。」

「そうでもない、おもしろいよ。」

「ふーん、多分俺が読んだらちんぷんかんぷんだぞ。」

郁真は頭はそれほど良くないらしい。よくは知らないけど。
そういえば、この前赤点とったとか騒いでたな。

この前読み終わった論文を貸そうかと聞いたら彼はブンブンと首を振った。
おもしろいのにもったいない。

郁真は突然俯き頭を掻いたと思えばなにか言いたげにこちらを見た。
しばらく謎の沈黙ができ、

「あー。。。木ノ実ってさ。」

「ん？」

「恋愛とかしないの？」

(急だな。)

私は首を振った。

郁真は顔を傾ける。

「なんで？木ノ実モテそうなのに。
彼氏くらい。。。。」

別に

「別にモテなくていいよ。」

吐き捨てるように言葉がでた。

私は本をパタンと音を立てて閉じる。

「モテなくていいよ。」

もう一度言う。

ああ、私は今どんな顔をしているんだろう。