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9話 ページ11

彼は人間だから、私たち天司より寿命が短い
きっといつか、彼は私たちを置いて先に死んでしまうのだろう

そんなことを考えると、途端に胸が苦しくなる
初めての感情に、私は戸惑う

この感情は、知識にない

彼は無表情を崩し、鼻で笑う

「おまえもそんな顔するんだな」

「そんな顔?」

「俺に死んでほしくないって顔だ」

それは一体どういう顔なのか
ここには鏡がないので、自分では確認できない

彼が鼻で笑うくらいだ
きっとひどい顔なのだろう

「俺が死んでるところを想像してみろ」

彼に命令され、私は素直に応じる

彼が死んだら

今のように喋ることも出来ず、彼はこの先一生目を覚ますことはない

彼の死体を想像し、思わず呻く
喉から何かが漏れそうになるのを、必死に抑える

胸が痛い、辛い、苦しい、嫌だ
様々な感情がごちゃまぜになって、思考がまとまらない

しまいには目から何かが流れ始める

これは知っている

涙というものだ
悲しい時に流れるものらしい

なら、この感情が悲しいというものなのだろうか

ルシファーが言う

「興味深いな。天司も涙を流すのか」

「……ルシ、ファー」

「正常に感情も機動しているようだな」

「ルシファー」

「うるさい、なんだ」

「……死なないでくれ」

私の言葉に、彼は目を丸くさせた後、笑った
私はそれを睨みつける気力もなく、ただ涙を流し続ける

そんな私に、彼は意地悪く笑う

「いつもの余裕はどうした」

「君、が!そういう、風に造ったん、だろう!」

思わず怒鳴るが、息がうまく吸えない
呼吸するのも辛くなる

彼はそれ見て、やはり楽しそうに笑う

「ああ、そうだな。俺がそういう風に造った」

全く、難儀なものだ
こんな感情、いらなかった

涙が止まらない

「……そろそろ泣き止め、研究の邪魔だ」

彼は呆れたように言う
私はそれに答えた

「……君が、寝てくれたら、止まる」

それに彼は心底嫌そうな表情を浮かべた
それから頭をガシガシと掻き、言う

「……一時間経ったら起こせ」

彼の言葉に、私は少し安堵する
心なしが、胸の痛みが和らいだ

私が頷くのを確認すると、彼は奥の部屋へと入っていった
その後ろ姿をぼんやりと眺めながら、考える

……腹いせに思う存分寝かしてやろう









三時間ほど経って起きてきた彼は、私の脛を思い切り蹴った

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うさ - 続き楽しみにしてます。 (2019年6月30日 18時) (レス) id: ef6ea16959 (このIDを非表示/違反報告)
東雲ノア(プロフ) - 表現、話の内容、書き方全てがとても好みです。久し振りに素敵な作品に出会えました。陰ながら応援してます。 (2019年4月5日 12時) (レス) id: be86295bcb (このIDを非表示/違反報告)
こまこ - 最高です。 (2019年3月24日 4時) (レス) id: 95e04e1a30 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もちもち | 作成日時:2019年3月14日 13時

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