土井半助 私の独白 ページ10
五十嵐蘭という人は、とにかく私には理解できない人だった。
まだ私が城で一人の忍として働いていた頃、仕事の関係で一度だけ関わったことのある人。
私の中での彼女は、客観的に尚且つ簡潔に述べるとすれば、ただそれだけの人だった。
もちろん、恩人である山田先生の奥さんの妹だということや、教え子であり私のことを兄上と呼んで慕ってくれているAの実の母親だということもあるが、それは今だから言えること。
少なくともあの時点での彼女とは、先述のような関係でしかなかった。
よく食べ、よく笑い、まるで子どものような年上の女性。
その上仕事も優秀で、欠点なんて見つけることができない。
チャミダレアミタケの全員から慕われているような、そんな存在が蘭さんだった。
彼女を嫁に貰う人は幸せ者だろうな、となんとなく思っていた。
そんな彼女が敵方の若手のホープ、かの城の期待の新星と呼ばれているような五十嵐凛之介と結婚したと聞いた時は、驚きはしたけれど、心のどこかでやはりそうか、と納得したものだ。
彼女が亡くなった、という話は、風の噂で聞いた。
私は純粋に、惜しい人を亡くしたものだ、と思った。
密かにファンだったらしい職場の先輩が男泣きしていて少し引いたとか、そんなことはない。断じて違う。
そうして私も城を抜け、走って、逃げて、行き着いた先に、彼等がいた。
目を開けて最初に視界に入ったのは、私の手を握って眠り込んでいるAと、それを微笑ましそうに見る奥様だった。
髪と目の色を除けば生き写しな奥様に、思わず息を呑んだのを覚えている。
しばらく後になって、Aが蘭さんの娘だということを聞いた。
通りでよく似ていたわけだ。
日に日に蘭さんにそっくりになっていくAに、彼女の若い頃を見ているようで、少し面白かった。
Aはすぐに私に懐いてくれて、私はすっかり山田家の一員となった。
そんなAが学園に入学することになった時、私は教師になることを決意した。
前から声をかけられていたし、私は子どもが好きだった。
何より、そうすることが私にできる一番の恩返しだと思ったのだ。
学園にAが入る上での奥様との約束として、蘭さんやチャミダレアミタケのことは一切教えない、というものがあった。
本当の両親が別にいると知ったAがチャミダレアミタケに利用されることは明白だったからだ。
今年のあの狐蝶騒ぎを思うと、あの時の奥様の判断はきっと正しかったのだろう。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» コメントありがとうございます!この話本当に上げていいのかな?って五時間くらい考えて、やっぱり上げました。驚かせてしまってすみません(笑)めちゃくちゃ遠回りすることになるとは思いますが、いつかは幸せになるはずなので、お付き合いいただけると嬉しいです。 (2020年11月9日 21時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - この展開は決まっていたことなんでしょうが、ど、動揺が…(・・;)続き無理ない範囲で良いのでお待ちしています! (2020年11月9日 21時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 凛@昆布教さん» テスト勉強はしようね……? とか言いつつ私も小テスト勉強一切せずに更新するんだけど。これからもご期待に添えるよう頑張ります。よろしくね。 (2020年11月9日 18時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
凛@昆布教(プロフ) - 冴川冬香さん» 期待通りって(笑)んー、まあまあ時間あるときに更新してくれれば。睡眠は学校の授業中とか塾とかでしてるから問題はないかなー(テスト1週間前)(夜以外も寝てる)ふへへいつまでも待つぜ (2020年11月9日 17時) (レス) id: 0b140bf78a (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 凛@昆布教さん» 壊れてないよー(笑)ものすごく期待通りの反応をありがとう。そしてごめんね。爆弾投下しといてなんなんだけど、今日更新できるかわかんないんですよねー。まぁ、適度な睡眠を取りながら待っていてくれると嬉しいです。 (2020年11月9日 5時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冴川冬香 | 作成日時:2020年9月2日 20時