山田伝蔵の妻 『姉様』 ページ7
今でも見る夢がある。
チャミダレアミタケの門の前。
泣き叫ぶ妹と、その胸の中で息絶えた彼女の夫。
そして私より四つ下の、妹の先輩。
彼女の攻撃に気づいたのに、私は何も出来なくて。
ただそこに、立ち尽くすだけだった。
自分は大丈夫だという妹の言葉がどうしても信じられず、姉としての正義感より私は彼女の後を追ってチャミダレアミタケ城へと向かった。
久しぶりに着る忍び装束、久しぶりに持つ愛用の短刀。
それらは私に自信を与えてくれた。
妹が危ないのなら、姉の私が助けなければ。
その一心で、向かったはずだったのに。
「いやあぁぁぁぁぁあっ!」
城まであと少しのところで、門の方から蘭の大絶叫が聞こえた。
慌てて私が走っていくと、血塗れで倒れている凛之介さんと、その前で膝をついている蘭がいた。
「蘭!」
私が駆け寄って声をかけるけれど、それに対する反応はない。
「いや! あなた! いや、いやぁぁっ!」
身を捩って、涙を流して叫ぶ蘭の体を揺すり、無理矢理こちらを向かせる。
「蘭、しっかりしなさい! 泣くよりも前に、すべきことがあるんじゃないの!?」
「ね、姉様……?」
私を見た蘭が驚いたようにそう呟く。
その目にだんだんと光が宿るのを確認して、私は力強く微笑んだ。
「さぁ、凛之介さんを連れて家に帰るわよ。Aが待っているんでしょう?」
毅然として私がそう言うと、蘭は涙を拭いて頷く。
──その時。
後ろからの猛烈な殺気を感じた私が振り返ると、蘭の先輩であるねねが私に刀を向けていた。
何度か家にも遊びに来ていて、ある程度は仲良くさせてもらっていると思っていたのだけれど。
……あぁ、もう避けられないな。
そう思って、諦めかけた私の耳に届いたのは。
「──お姉ちゃんっ!!」
心から訴えているかのような、蘭の叫び声。
そして、私の前に両手を広げて立ち塞がる、たった一人の肉親。
「──ッ!!」
勢いよく起き上がった私は、フゥフゥと息を整える。
「大丈夫か?」
横から声がして目を向けると、夫である山田伝蔵が心配そうな顔で私を見ていた。
「えぇ、大丈夫よ」
彼を安心させるべく、私は優しく微笑む。
「明日には、Aと半助が戻ってくるのよね?」
「あぁ。きり丸も一緒らしい」
全く関係のない話をしてみるも、彼のその表情は変わらない。
「大丈夫。ただ、夢を──」
一度目を閉じてあの光景をしっかり思い浮かべ、私は笑う。
「夢を、見ていただけよ」
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» コメントありがとうございます!この話本当に上げていいのかな?って五時間くらい考えて、やっぱり上げました。驚かせてしまってすみません(笑)めちゃくちゃ遠回りすることになるとは思いますが、いつかは幸せになるはずなので、お付き合いいただけると嬉しいです。 (2020年11月9日 21時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - この展開は決まっていたことなんでしょうが、ど、動揺が…(・・;)続き無理ない範囲で良いのでお待ちしています! (2020年11月9日 21時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 凛@昆布教さん» テスト勉強はしようね……? とか言いつつ私も小テスト勉強一切せずに更新するんだけど。これからもご期待に添えるよう頑張ります。よろしくね。 (2020年11月9日 18時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
凛@昆布教(プロフ) - 冴川冬香さん» 期待通りって(笑)んー、まあまあ時間あるときに更新してくれれば。睡眠は学校の授業中とか塾とかでしてるから問題はないかなー(テスト1週間前)(夜以外も寝てる)ふへへいつまでも待つぜ (2020年11月9日 17時) (レス) id: 0b140bf78a (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 凛@昆布教さん» 壊れてないよー(笑)ものすごく期待通りの反応をありがとう。そしてごめんね。爆弾投下しといてなんなんだけど、今日更新できるかわかんないんですよねー。まぁ、適度な睡眠を取りながら待っていてくれると嬉しいです。 (2020年11月9日 5時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冴川冬香 | 作成日時:2020年9月2日 20時