やっぱり私は山田家の娘 ページ49
その翌日は、朝から雨が降っていた。
「本当にもう行くの？」
「身体に気をつけてな」
濡れるからいいと言うのに、皆が外に出て見送ってくれる。
城の前の階段まで、と言うと、ようやく納得してくれた。
「お前、名は、何という」
若元の声に顔を向けると、殿と二人並んでいるのが見えた。
「いや、まだ、聞いていなかったと思うてな」
ゆっくりと私に近づいてきて、私の一段手前で止まる。
「A」
そこまで言って、私は少し考える。
「五十嵐──ううん。山田A」
そう言った時、ねね先輩は息を呑んで、そして、クシャッと笑った。
「そうか。いい名だな」
若元の処遇はまだ決定していない。
周囲の城とも話し合って、決めるのだそうだ。
できることなら、彼女から統治権を奪わないであげて欲しい。
ここに来た時ナルト領を見て、領主としてはとても良い人なのだと思ったから。
それに彼女だって、この戦国の世の被害者なのだから。
「ねぇ、A。なんで山田って名乗ったの？」
ナルト領からチャミダレアミタケ領に入ったところで、ずっと黙っていた勘右衛門がようやく口を開いた。
「変わらないといけないって思ったから。前と同じではダメだって、思ったから」
先頭を早足で歩きながら、私は言う。
「……それに、あの人に五十嵐Aって名乗るのは、なんだかんだ言ったけど、なんかしゃくに触ったから」
私はくるっと振り返ると、そう言って戯けて笑う。
「なぁ、A」
それまで一言も発していなかった三郎が、おもむろに口を開いた。
「雨が、降っているよな」
「……うん」
「誰も、気づかないんじゃないか？」
三郎の言わんとすることがわかって、私は情け無く眉を下げる。
「泣けないの？」
昨日と同じように、勘右衛門が聞いてくる。
「泣き方が、わからなくなったの」
だって、今までは泣いていたら兵助が来てくれた。
伊作先輩を振ったあの日でさえ、心のどこかで兵助が来てくれると、そう思っていた。
でも来てくれなくて。
もう兵助が来ることはなくて。
一人ではもう、上手く泣けなくなった。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» コメントありがとうございます！この話本当に上げていいのかな？って五時間くらい考えて、やっぱり上げました。驚かせてしまってすみません（笑）めちゃくちゃ遠回りすることになるとは思いますが、いつかは幸せになるはずなので、お付き合いいただけると嬉しいです。 (2020年11月9日 21時) (
レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - この展開は決まっていたことなんでしょうが、ど、動揺が…(・・;)続き無理ない範囲で良いのでお待ちしています！ (2020年11月9日 21時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 凛@昆布教さん» テスト勉強はしようね……？ とか言いつつ私も小テスト勉強一切せずに更新するんだけど。これからもご期待に添えるよう頑張ります。よろしくね。 (2020年11月9日 18時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
凛@昆布教(プロフ) - 冴川冬香さん» 期待通りって（笑）んー、まあまあ時間あるときに更新してくれれば。睡眠は学校の授業中とか塾とかでしてるから問題はないかなー（テスト1週間前）（夜以外も寝てる）ふへへいつまでも待つぜ (2020年11月9日 17時) (レス) id: 0b140bf78a (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 凛@昆布教さん» 壊れてないよー（笑）ものすごく期待通りの反応をありがとう。そしてごめんね。爆弾投下しといてなんなんだけど、今日更新できるかわかんないんですよねー。まぁ、適度な睡眠を取りながら待っていてくれると嬉しいです。 (2020年11月9日 5時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冴川冬香 | 作成日時：2020年9月2日 20時
