それでも私は山田家の娘VI （兵助編）

焚火 ページ35

「戌の刻になったら夕飯にしましょう。……と言っても、火が使えないから携帯食料になるけど」

文左衛門の一件は完全になかったことにしたらしいねね先輩にそう言われ、私たちは顔を見合わせる。

「食べられるだけで贅沢ですし」
「構わないですよ。ねぇ？」
「うん。敵領地に近いのに、落ち着いてゆっくり食べれるなんて思ってもみませんでしたから」
「ってことなので、お気になさらないでください」

私たちが口々にそう言うと、先輩は何故か溜息を吐く。

「忍術学園の教育をちょっと舐めていたようだわ。そうね、基礎知識の何もない新人たちとは違うのよね」

何となく先輩が何を言いたいのかわかって、私は苦笑いする。

「作戦会議は戌の刻下がりになる予定。本当は組頭と各小隊の小頭だけが出るんだけど、それぞれの得意分野があるだろうし、あなたたちは全員私と一緒に出てちょうだい」
「「はい」」

私たちは先生にするように、声を揃えて返事をした。

小頭、ということは、文左衛門さんも出るのだろうか。




「「いただきます」」

少量の水と兵糧丸を前に、私たちは手を合わせる。
こういう時に背中合わせで円になって食べるのは、多分野外実習の時の癖。

会計委員会の時もこうしながら食べたな、とふと思い出し、少し懐かしくなった。

私が正式な会計委員でなくなってから、まだああいうことをしていない。


夜の間だけ黒い幕を周囲に張っている。
料理をしたら煙がその比でないから流石にできないけれど、小さな焚き火くらいなら遠くからでは見つからない。

夏とはいえ夜で、学園より北の山だから、少し肌寒い。
背中合わせの円の中心に、本当に気持ちだけの大きさの、小さな焚き火を作った。

じんわりと背中が温かい。

風が吹くたびにゆらゆら揺れる目の前の影を見ながら、兵助と雷蔵は今どうしているのかな、と思った。



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戌の刻:19時〜21時
戌の刻下がり:だいたい20時すぎ

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