それでも私は山田家の娘VI （兵助編）

製薬 ページ21

「上手いですね」

二人が出て行った後、数馬がそう言って私を見た。

「何のこと？」
「……いえ、なんでもないです」

私が聞き返すと、クスッと笑って数馬はまた治療を再開する。

「A先輩、薬できました」

左近が衝立の向こうから顔を覗かせてそう言う。
私はお礼を言ってそれを受け取ると、左近にも教室に帰るように言った。

「僕は残ります。三人寄ればなんとやら、って言いますし、きっと役に……」
「ダメよ」

私がピシャリと言い放つと、左近が驚いたように目を見開いた。

「なんでですか？ 数馬先輩一人では、何かあった時に困るんじゃないですか」
「薬を作った後って、自分で思っているより集中力がなくなっているの。そんな状態で怪我の治療はさせられないから」

私の言葉に、左近は不満そうに頬を膨らます。

「僕が作っていても、先輩は同じことをおっしゃったと思うよ」

数馬が困ったようにそう言うものの、左近の態度は治らない。

「僕も早く役に立ちたいのに……」

製薬セットの片付けをしながらボソリと呟いた左近の言葉に、背を向けて治療をしていた私は顔を上げる。

「左近」
「は、はい」

少し真面目な声を出した私に、左近は慌てたように返事をする。
怒られる、とでも思っているらしい。

「左近は、薬、作るの上手でしょう？ 沢山、作り方知りたいって、前に言ってたよね」

怒っているわけではない、と意識して私は優しい声を出す。

「本当はね、この薬、難しいから教えるのは三年生になってからにしようって伊作先輩と言ってたんだけど、左近なら作れるかなって思って。左近が頑張ってるのは私もよく知ってるし、普段の薬なら、こんなことは言わないんだけど……」
「A先輩……」

私の言葉に、左近が感慨深そうに俯いた。

「わかりました。僕、部屋に戻ることにします。三郎次のことも心配ですし」
「うん。落ち着いたら、呼びに行くよ。今回の毒のこととか、結構参考になること多いから。乱太郎たちも一緒に、勉強しよう？」

はい、と笑顔で顔を上げた左近は、手早く片付けを済ませて立ち上がった。

「左近が折角薬を作ってくれたんだもの。兵助は私が絶対に助ける」

医務室を出ていく左近の背中に向かってそう言うと、信じています、と小さく返ってきた。



兵助はこんなところで死なせたりしない。
まだ話したいことがある。

まだ伝えていない、ことがある。

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