違和感 (2022.2.28改稿) ページ38
「……A」
遠くで誰かが私の名前を呼んでいる。
「A、A!」
誰よ、せっかく気持ちよく寝てたのに……。
容赦なく身体を揺すぶられ、私は少しの不満と共に目を開けた。
「……って、あれ? 伊作先輩?」
まだぼんやりとする視界の先に、心配そうな顔をした伊作先輩がいる。
……なんで私、ここにいるんだっけ。
「あー、えっと、その、おはようございます?」
何か言わねば、と口を開いたもののどうすればいいかわからず、苦し紛れに絞り出した目覚めの挨拶は情けなく語尾が上がる。
私の言葉にきゅっと眉間に皺を寄せた伊作先輩が、深々と溜息を吐いた。
「おはようございます、じゃないでしょ。なかなか合流してこないから心配になって見に来たのに、なんで寝てるの」
「すみません」
へにょん、と眉尻を下げて謝る私に、先輩は少し気まずそうに視線を泳がす。
「立てる?」
先輩が差し伸べてくれた手をそっと取り、立ち上がろうと身体に力を入れた。
「あ、あれ?」
立ち上がった途端に膝から力が抜け、私は先輩にもたれるようにして倒れ込む。
「す、すみません。こんなはずじゃなくて。あ、あれ?」
力の入っていない今の私は、いつも以上に重くなっているはずだ。
慌てて退こうとしても必要なところに体重がかからなくて、腕が地面を空回ってしまう。
「無理みたいだね」
そっと私を起こして再び木にもたれさせた先輩は、きょろきょろと辺りを見回す。
「薬草籠は?」
「すみません、誰かに盗られてしまったみたいです。気がついた時にはもうなくて……」
すみません、と私は目覚めてから何回目かわからない謝罪をする。
不甲斐ない。
木の下に置いたりせず、ずっと持っていればよかったのだ。
しゅん、と下を向いた私に、伊作先輩は長々と溜息を吐いた。
「あのねえ、A。そんなこの世の終わりだ、みたいな顔しないの。あんな爆発が起こったのに、これくらいの怪我だけで帰ってこられたことがすごいんだから」
あんな、爆発。
って、どんなだっけ。
ほら、帰るよ、と伊作先輩が私を抱き起こす。
私はそっと先輩の服を掴む。
何かを忘れているような小さな違和感が、胸をチリ、と焦がした。
67人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» いつもコメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまいすみません……。白狐さんの褒めてくださるポイントは全て私が気に入っているところなので、毎回コメントをいただく度ににこにこしています。これからも楽しんでいただけると幸いです(*^▽^*) (2022年3月2日 21時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - 今年も冴川さんのペースで更新頑張ってください! 応援してます! (2022年1月16日 21時) (レス) id: 06e1d35d87 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - あけましておめでとうございます そして、たくさんの更新ありがとうございます! お説教の段でこっそり逃げようとしても逃げられないシーン大好きです! あと、スリルとサスペンスゥの段の伊作先輩キュンキュンしました! (2022年1月16日 21時) (レス) @page49 id: 06e1d35d87 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» いつもコメントありがとうございます。言ってくださる感想のポイントが私のお気に入りな部分ばかりで毎回にこにこしております。 Twitterの方も見てくださっているですと……!?絵も褒めていただけて嬉しいです。ありがとうございます! (2021年11月27日 12時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - Twitterも私アカウント持ってないのでフォローできてないんですけど、見させてもらってます! 絵上手ですね あと、夢垢の小説も面白いです! (2021年11月14日 20時) (レス) id: d2923587f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冴川冬香 | 作成日時:2021年2月7日 17時