悲鳴にも似た ページ30
まずい。
まずいまずいまずいまずい。
狐蝶として数馬たちと合流した私は、平静を装いつつも内心とても焦っていた。
伊作先輩と、作兵衛と三人で戦って、数馬に一、二年生を守ってもらえたらなんとかなるかなって思ってたのに。
まさか、伊作先輩がいないなんて。
先輩達を逃して焙烙火矢を投げた私は、その煙幕の中で狐蝶の衣装に着替えた。
爆風と煙が強いだけで大した威力のないその焙烙火矢の煙が晴れた頃には、もう準備は整っていた。
早く伊作先輩達のところへ行きたくて、私は男達を倒すだけ倒して縛りもせずにその場を立ち去ったのだ。
甘かった、と思う。非常に。
遅れて合流してきた男の中には、さっき私と刃を交わした者もいる。
……だって、まさか先輩がいないとか思ってなかったんだもんっ!
数馬たちと合流してから何度思ったかわからない叫びを、私は心の中で再度漏らす。
すれ違わなかった。
先輩を追い抜いた覚えもない。
なのになんでいないの。
頼みの綱のようにしていたのに、伊作先輩がいないとか予想外にもほどがある。
もう少しできっと“彼”は来ると思うけれど。
あれだけの煙で居場所を知らせたのに来なかったら困るのだけれど。
……上級生が私一人じゃ、保たないかもしれない。
左近も、数馬も作兵衛も、そして私も。
後輩を守るために気を張りすぎて、もう限界が近づいているのだ。
油断しているわけではないのに、決して気を抜いているわけでもないのに、今も横からの攻撃に私は気がつけなかった。
確実に倒しているはずなのに、どこから湧いて出たのか次々に増える敵。
めげそうになる心を必死に叩き直し、なんとか足を踏ん張る。
頑張らなきゃ。
私が、皆を守るんだから。
「──ッ作兵衛!」
悲鳴のように黄色い、数馬の叫びが左から右へと突き抜けた。
思わずバッと顔を向ける。
男達の中に、ふわふわとした赤い髪が沈んでいくのが見えた。
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冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» いつもコメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまいすみません……。白狐さんの褒めてくださるポイントは全て私が気に入っているところなので、毎回コメントをいただく度ににこにこしています。これからも楽しんでいただけると幸いです(*^▽^*) (2022年3月2日 21時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - 今年も冴川さんのペースで更新頑張ってください! 応援してます! (2022年1月16日 21時) (レス) id: 06e1d35d87 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - あけましておめでとうございます そして、たくさんの更新ありがとうございます! お説教の段でこっそり逃げようとしても逃げられないシーン大好きです! あと、スリルとサスペンスゥの段の伊作先輩キュンキュンしました! (2022年1月16日 21時) (レス) @page49 id: 06e1d35d87 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» いつもコメントありがとうございます。言ってくださる感想のポイントが私のお気に入りな部分ばかりで毎回にこにこしております。 Twitterの方も見てくださっているですと……!?絵も褒めていただけて嬉しいです。ありがとうございます! (2021年11月27日 12時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - Twitterも私アカウント持ってないのでフォローできてないんですけど、見させてもらってます! 絵上手ですね あと、夢垢の小説も面白いです! (2021年11月14日 20時) (レス) id: d2923587f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冴川冬香 | 作成日時:2021年2月7日 17時