空白の十五年間 ページ8
「ねね先輩、一体どういうことなんですか」
城に帰ったわたしは、事情を聞こうと先輩を問いただす。
「ここじゃなんだから、部屋で話すわ。四半刻後に向かうから、待っていなさい」
周りの目を気にするように、ねね先輩はわたしに囁く。
わたしはこくりと頷くと、自分の部屋へと走っていった。
四半刻後。
部屋を軽く掃除していると、宣言どおりにねね先輩がやってきた。
「後ろの方は？」
先輩の後ろに立つダンディーなおじさんが誰か聞くと、彼はショックを受けたように目を見開く。
「覚えていないのか？ 文左衛門だ」
十歳年上の上司である文左衛門だと言われ、わたしは首を傾げる。
確かに顔はそっくりだけど、彼はもっと若々しい顔だった。
「……文左衛門さん、なんか老けましたか？」
思ったことをそのまま口に出すと、拳骨をお見舞いされた。
「ったたた……。何ですか？ わたしは事実を述べたまでですよ！？」
暴力反対、とわたしが抗議すると、二人は揃って溜息を吐いた。
「そのことも含めて今から説明するから、一旦そこに座ってちょうだい」
呆れたようにねね先輩に言われ、わたしは腰を下ろした。
「え？ あの、え？」
語彙力消失、とかは言わないでいただきたい。
先輩二人に今日までのことを話されたわたしは、思考回路がぶっ飛んでしまっているのだ。
「もう一度言うから、落ち着いて聞いてちょうだいね」
動揺しすぎて頭の回転がついていっていないわたしに、ねね先輩が苦笑して言う。
「あなたが最後に記憶情報を更新したのが、十五年前。その半年後に任務に失敗して、一週間目を覚さなかったの。で、起きたら記憶がなくなっていて、そこから十四年間、あなたは自分が誰なのかわかっていなかった」
今日が目を覚ましてから丁度十四年目なのよ、と先輩が言った。
今日まで自分が誰かもわからず、仕事もできないわたしをこの城は養ってくれていたらしい。
「だから、私が十五年分歳を取っているように見えるのは当然のことなのだ」
老けたとか言うな、と文左衛門が心外そうに言う。
「あー、はいはい。すみません」
わたしはわざと面倒そうな言い方をする。
「お前、反省してないだろう」
すかさず文左衛門が言い返す。
蘭の知っている、いつもどおりの会話。
蘭の日常。
心地よい関係。
……なのに、「私」がいたいのはここじゃないと思うのは何でなんだろう。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» ありがとうございます！ 沢山楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2020年6月26日 18時) (
レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - 面白くて�気�ら一気に読みました！兵助くん大人しそうにみえて意外と大胆な所もあって…続きが楽しみです。 (2020年6月26日 0時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冴川冬香 | 作成日時：2020年6月6日 8時
