お怒りモード ページ45
保健委員の当番も終わり、学園内に赤い光が刺し始めた頃、私は長屋に戻った。
少しきつめに巻いていた頭巾を解いて、私はそっと頭を振る。
「……ふぅっ」
小さく息を吐いた後、私は部屋の障子に手をかけた。
中にある気配は一つ。
さっき火薬委員たちが煙硝蔵で作業しているのが遠目に見えたから、今中にいるのは勘右衛門のはず。
どうか神様、私にご慈悲を！
祈りを込めて障子を開けたのに、それも虚しく、中にいたのはお怒りモードの久々知兵助くんだった。
「た、ただいま〜」
一瞬強張った顔を誤魔化すように、あくまでいつもどおりに私は挨拶する。
「おかえり」
超不機嫌です、というのを隠そうともせず、むしろ全面に押し出しながら兵助が返してくれる。
「か、火薬委員会はいいの？ さっき伊助たちが煙硝蔵で作業してたけど」
何か話題の提供を、と疑問に思っていたことを口に出す。
「んぁ？」
ピシリッ
兵助の怒っているのか、機嫌が悪いのか、たまたま出ただけなのか、公式なのかよくわからない返事を聞いて、私は固まった。
「今日の当番は伊助とタカ丸さんだから」
「へ、へぇ〜。そっかぁ」
……会話終了。
おおぅ、話が続かない！
再び訪れる沈黙に少し寂しくなりながら、私はさっき届いた荷物を片付ける。
……ねね先輩に、お返事書かないとな。
いつか余裕ができたら、ちゃんと書きたい。
速達で送ってきてくれたのに「余裕ができたら」なんて、失礼かもしれないけれど。
まぁいっか。
「なぁ、A。ちょっと話があるんだけど、今からいいか？」
私が全力で現実逃避していたところに、兵助がそう言ってきた。
「ふぇっ！？ 今から？」
「忙しいか？」
こてりと首を傾げてそう言ってくる兵助に、私は反射的にブンブンと首を振る。
「良かった。じゃあ、そこに座って？」
私は言われたとおりに腰を下ろす。
「あー、へ、兵助。この部屋で大丈夫なの？ 勘右衛門が戻ってきても、問題ない話？」
「あぁ。勘右衛門には呼ぶまで帰ってくるなって言ってるし、大丈夫」
最後の悪足掻き、と言わんばかりに私が言うも、いい笑顔で流されてしまう。
……これは何やらまずいかもしれない。
何がまずいって、私が何したのかさっぱりわかってない。
兵助の逆鱗にここまで触れるようなこと、私したかなぁ。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» ありがとうございます！ 沢山楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2020年6月26日 18時) (
レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - 面白くて�気�ら一気に読みました！兵助くん大人しそうにみえて意外と大胆な所もあって…続きが楽しみです。 (2020年6月26日 0時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冴川冬香 | 作成日時：2020年6月6日 8時
