斜陽 ページ34
……ダメだ、ぐちゃぐちゃする。
なんとか五年生の質問責めから逃げられたものの、私の混乱は先程の比ではなくなっている。
私の自我を取り戻したけれど、生母様の記憶も、チャミダレアミタケでの出来事も、全て覚えているのだ。
……さっき抱きしめられた時、ちゃんと笑えてたかな。
後ろから兵助に来られると、どうしてもあのことを思い出してしまう。
刃物が人に当たった感触。
流れる赤。
動かなくなる兵助。
あれほどの怪我をしたのに今動けているのは、彼のもともとの治癒力と薬のおかげだ。
刺さった、というより掠った感じだったらしいけれど。
……トラウマになりそう。
私は例の空き部屋で一人、ごろんと横になる。
外はもう日が沈み始めていて、部屋の中に緋色の光が差し込む。
血の色。
紅く、黒く、毒々しい、血の色。
まるで私に、自分の罪を見せつけるかのように。
強く、強く。
仲間を傷つけた私に。
裏切り者への、制裁の如く。
────────────────────────
「団蔵、本当にこの部屋なのか？」
「はい！ 先輩が入っていったのはこの部屋です」
「僕も見たので間違いないです」
外から聞き慣れた声がして、私は体を起こす。
障子に近づいて、カラ……と少しだけ開けると。
「……み、みんな」
「「A先輩！」」
タタっと駆け寄ってくる団蔵と左吉。
お腹に縄を巻いている左門と、その先端を持つ三木ヱ門。
いつも以上に隈がくっきりの、潮江先輩。
私の、第二の我が家のような。
会計委員がそこにいた。
「何泣いてやがる、バカタレ」
団蔵、左吉、後ろにいた左門と三木ヱ門をまとめて抱きしめて、私はぼろぼろと涙を流す。
「わかんないです。や、止まんない。もうこれ条件反射ですよ」
少しぎこちなく、でも優しい手つきで頭を撫でてくれる潮江先輩を見上げ、私は笑って見せる。
「鍛錬不足だな」
「そうかもです」
久しぶりに言われた鍛錬不足が嬉しくて、日本語が変になりながら私は答える。
この温もりがありがたくて、私は彼らを一層力強く抱きしめた。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» ありがとうございます！ 沢山楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2020年6月26日 18時) (
レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - 面白くて�気�ら一気に読みました！兵助くん大人しそうにみえて意外と大胆な所もあって…続きが楽しみです。 (2020年6月26日 0時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冴川冬香 | 作成日時：2020年6月6日 8時
