その一言が言えなくて ページ28
一向に目を覚ます様子のない兵助の黒髪を指先で弄り、私はふっと笑う。
ずっと、気になる人だとは思っていた。
でも、どう気になっているのか気づかないフリをして。
あれこれ思い悩むのが嫌で、逃げてきた。
恋愛的な意味で好きだ、なんて言えるわけない。
三禁だから、というのもあるけれど。
私に好かれているなんて、兵助からしたらいい迷惑だろうから。
気づきたくなかった。
どんなに好きでも、今の私ではそんな資格ない。
そばにいたいということさえ、口に出せなかったのに。
恋愛的に好いてるとか、言えない。
愛してるなんて、言えるわけない。
.
傷による発熱のためか、兵助が汗をかいていた。
私は傷を刺激しないように気をつけながら、兵助の体を拭き始める。
一度目を覚ました、と伊作先輩が言っていたから大丈夫だとは思うけれど。
話がしたい。
ちゃんと目を見て、謝りたい。
傷つけてしまったことの謝罪を。
許してくれなくても仕方ないから。
「……にしても、起きないな」
体をここまで触られていたら、普通目を覚ますと思う。
「やっぱり私のせい、だよね」
「違う！」
私が溜息を吐くと、兵助が勢いよく起き上がった。
「うひゃあっ！」
私は驚いて思わず奇声を上げる。
「どのタイミングで目を開ければいいか、わからなかっただけなんだ」
手拭いを握ったまま目を白黒させている私の両手を掴み、兵助が訴えてくる。
「え、えっと。傷、大丈、夫……？」
恐る恐る私が聞くと、兵助はそっと笑う。
「そんなに深くなかったから。痛み止めももらったし、大丈夫」
気遣われていることに気づいて、私は顔を強張らせる。
「ごめんなさい」
兵助に手を離してもらった私は、そう言って深々と頭を下げた。
「A？ だから、大したことないから大丈夫だって」
「それでも。私、兵助に酷いことした」
大好きなのに。
傷つけたくなかったのに。
私は泣きそうになりながら床の木目を見つめた。
「……はぁ」
頭上から兵助の溜息が聞こえ、私はギュッと目を瞑る。
ゆっくりと気配が近づいてきて、私は身構えたのだが。
コツン
私の後頭部に乗せられたのは、兵助のおでこだった。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» ありがとうございます！ 沢山楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2020年6月26日 18時) (
レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - 面白くて�気�ら一気に読みました！兵助くん大人しそうにみえて意外と大胆な所もあって…続きが楽しみです。 (2020年6月26日 0時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冴川冬香 | 作成日時：2020年6月6日 8時
