弱き聖女よ ページ27
「伊作先輩。あの、兵助は……？」
「そっちの布団で寝てるよ」
急遽作られた、という感じの簡易式の衝立の向こうを指して伊作先輩がそう言った。
「容体は、どうですか」
「僕に聞くくらいなら、自分で見てみたら？」
気になるんでしょう、と笑って先輩は言う。
こくりと頷くと、私は立ち上がって衝立の裏を覗き込んだ。
「……兵助」
穏やかな顔をして、規則正しく息をたてながら兵助が寝ている。
そのことに安堵して、私はほぅっと溜息を吐いた。
……生きてる。
ねね先輩が帰っていくのを見ている間も。
学園長先生の庵で頭を下げている間も。
母様を気遣おうとしている間も。
私のせいで怪我をした生徒たちの治療をしている間でさえも。
兵助のことが、気が気でなかった。
目の前で、赤い血を流して倒れた兵助のことが、気になって仕方がなかった。
「殺してしまったかと思ったの」
大切な人を。
大好きな人を。
離れたくない人を。
失いたくない人を。
私の手で、自分自身が死なせてしまったのかと思った。
兵助がいなくなると思ったら怖かった。
必死で平静を装っていたけれど、怖くて怖くて堪らなかった。
どれだけ彼が大切になっていたのか、失いかけてようやくわかった。
もう、遅かったのだろうか？
兵助は私の顔など、もう見たくないかもしれない。
それでも、まだ諦めたくなくて。
悪足掻きをするかの如く、ここに来てしまった。
生徒たちを治療するためではなく。
自分の怪我の手当てをするためでもなく。
彼が無事かを確認するために。
兵助の顔を、もう一度見るために。
.
いつの間にか伊作先輩はいなくなっていて、医務室の中にいるのは私と兵助だけだ。
「ねぇ、兵助。私、すごく馬鹿だったの。
小さい頃から、外の世界のことをなんでも知っている兵助が羨ましかった。
実技も、座学もなんでもできて、先生たちから褒められてて。
口喧嘩では絶対に敵いっこない。
どんなに大喧嘩しても、兵助が笑ってくれないのが寂しくて、一日もせず私が謝ってしまう。
ずっと不思議だったの。なんで勝てないんだろうって。
当然よね。
兵助のことが大好きなのは、私なんだから。
こうなって、初めて気づいたのよ？
私は、私はずっと、」
あなたのそばで笑っていたかったの。
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冴川冬香(プロフ) - j061191さん» ありがとうございます！ 沢山楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2020年6月26日 18時) (
レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - 面白くて�気�ら一気に読みました！兵助くん大人しそうにみえて意外と大胆な所もあって…続きが楽しみです。 (2020年6月26日 0時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冴川冬香 | 作成日時：2020年6月6日 8時
