夢語神龍壱【名前固定】 (ページ6)

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一節　六部ページ6

それはつまり悪霊のようなものなので、普通はお目にかかることがなく、あるとすれば廃墟や山奥。洞穴等は基本、冒険者の為のダンジョンのような形にされている為殆ど不明な存在である黒煙はここに存在してはならないのだ。
　ありえない光景にナオの思考は止まる。黒龍はそんな姿を見兼ねてナオを呼びかけると震える瞳をこちらに向けた。

「多分、アイツらが依頼書の討伐モンスターかと」
「はぁ！？ゴブリンはともかく、黒煙は討伐できねぇよ！？だって煙だもん！！」

　黒煙は人の形をしたただの煙で、物理攻撃は一切効かない。勿論黒煙自身も、何か物や人に触れることすら出来ない。しかし取り込むような形はできる。幽霊で例えるなら憑依や呪いのような類のもの。その為、精神攻撃が彼らの主な攻撃方法となっている。

「だから今こうして行き止まりの所から態々抜け道を見つけ出し逃げてるわけだろう」
「だ、だけどそしたら依頼は……」
「未達成だな」

　ナオは再び言葉を詰まらせた。
　そもそも依頼とは一般人では解決できない、どうも出来ないことを冒険者等に頼む・頼ることで解決させるという作りでなっている。その責任というものを知っているナオは、ここに龍がいただろうことを考えるだけでナオは俯いたまま動かなくなった。するとナオは黒龍に、ぼそっと『おろせ』と、ただ一言だけ呟く。黒龍は目を見開き素っ頓狂な声を上げて、ナオを見つめた。

「…はっ？」
「おろして黒龍」

　真剣な声でも手は震えていて、黒龍は今の状況を考えながら走ることに集中する為、一旦ナオから目を離す。

「流石にその命令は聞かねぇ。主の身に危険が及ぶ、確実に」
「おろせ！！」「断る！！」

　ナオの声に被せるように、珍しく声を荒らげる黒龍。敵の数に加えて黒煙が居るのだ、この量をナオを守りながら倒すのは無理と判断。黒龍には逃げる選択肢しか浮かばなかった。ナオは俯いていた顔を上げ黒龍を見るが、黒龍はその視線を無視して走り続けた。

「おろせ、命令だ」

　顔を上げ、しっかりと言ったその言葉に黒龍は顔を顰めて、ナオを抱く手に力が入った。黒龍は出来ることならナオの願い全てを叶えたい想いがあるが、それより怪我をして欲しくない、無理をして欲しくない気持ちもあった。

「嫌だ、何故この依頼を諦めねぇんだ」

　ナオはひとつ深呼吸をし、落ち着いてからはっきりと言葉にする。