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俺とふたりだけだったはずのAの世界は、Aが幼稚園へ通い始めたことで大きく変わった。
最初は「ユンギくんと一緒にいれないなら幼稚園行きたくない」と言っていたのに。幼稚園から帰って来てすぐに俺のところへ足を運び、今日あった出来事やお昼寝で見た夢の話をしてくれたり、幼稚園に咲いていた花を摘んで来てくれたりしていたのに。
「はやく来年になればユンギくんといっしょに通えるのになあ」と嘆いていたAを俺が慰めて、心の中で喜んでいたのに。Aもやっぱり俺が隣にいないとソワソワするのだと。そう思っていたのに、少しずつ、けれど確かに変化していた。
不安そうに入園式を終えたAを見てから半月ほど経った頃。Aが話す内容は幼稚園で食べたお菓子の話でも、夢の話でもなく、幼稚園でできた友達のこと。「〇〇ちゃんと本を読んだの」「△△くんがわたしにお花をくれたんだあ」ニコニコと楽しそうに笑うAを見て、心臓がキュッと締まった気がした。Aは俺がいない場所で友達を作り、俺がいない幼稚園生活を謳歌していた。Aの話を聞きたいのに、Aの話でくるしくなった。
「明日〇〇ちゃんと△△くん達と遊びに行くの」俺にお菓子を半分こした時と同じくらい嬉しそうに話すAに、俺は「そうなんだ」と返すことで精一杯だった。その日からAは、幼稚園が終わると友達の元へと足を運び、俺の元へ来る回数が減っていった。
「Aママ、ヌナは…?」
「あらあ、ユンギくん?ごめんね。Aったら今日もお友達と遊びに行ったの」
「…っ、そっかあ」
いつもAが俺のところへ来てくれたから、今日は俺がAのところへ行こうと思ったのに。Aはもういなかった。また胸の奥がきゅううと締め付けられるような感覚になる。俺にはAだけだったのに。Aは俺じゃない子と一緒にいるという事実がさらにくるしくなった。
Aが幼稚園で出来た友達の話も楽しそうに話すのも嫌だけど、Aが隣にいないことの方がもっと嫌だった。
「じゃあおれ、帰るね」
「…一緒におばさんと待つ?」
「ん〜ん、だいじょうぶ」
Aママが引き止めてくれたけど、Aがいつ帰ってくるかわからないのにずっと待つ気分にもなれなかった。来るときは楽しい気分で歩いた道を今度は少しだけ重い気持ちで歩んだ。
「おれとずっと一緒っていってたのに…」
ボソリと呟いた言葉は誰にも届かずに空気に吸い込まれていった。
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作者名:みいこ | 作成日時:2022年9月6日 15時