電 ページ4
◇四◇
お江戸に越してきてもう八年。最初の頃こそ安いボロアパートを借りていたが、都会暮らしに慣れるにつれ部屋もどんどんグレードアップしていき、今ではすっかり憧れのヒルズ族――とはならず。
八畳一間で風呂ナシ収納アリの、大して高くも、かといって安くもない家賃を納めれば住むことのできる自宅で、私は夜を過ごしていた。
日焼けてしまったカーテン越しに窓の外を見やれば、江戸の町の猥雑な灯りが目に入る。
江戸――というかかぶき町は相変わらず怪しげな色のネオンが瞳に眩しく、酔っ払いオヤジや客引きのオニーサン、身体のほとんどを晒した格好のオネーサンなど、精神衛生上よろしくない画が窓の外に広がっていた。いくら家賃相場が低いとはいえ、やはりこんな場所に居を構えるんじゃなかったかと後悔する。
畳にゴロ寝し適当に流したテレビ番組をぼんやりと見ていると、フッと部屋が暗くなった。
「うわっ、なに停電？」
と、そう声に出してみたが、点けていたテレビは変わらずお茶の間に笑いを届け続けているので、どうやら電球が切れただけらしい。ここ最近、調子の悪そうに点滅していた電灯の様子を思い出して、私はすぐにこの暗闇の正体を理解する。ついでに、予備の電球を買っていないということも。
真っ暗の中虚しく流れ続けるテレビの明かりをブチリと消して、私は最寄りのコンビニへと向かったのだった。
■
――しくじった。
「――オネーサンもしかしてひとり？ ちょーど良かった。俺も友達にドタキャンされて暇してたところだったからさァ、誰か一緒に酒飲んでくれる子探してたんだよねー。ってことでオネーサンどう？」
「いやどうとか言われても。結構です」
今私の周りにあるもの。風俗店の看板、酔っ払いの怒号、電球の入ったコンビニ袋、――にやけ笑いを浮かべるチャラい格好の男。
つまりはコンビニ帰りに絶賛ナンパされ中だ。なうである。ナンパ被害なう。
今わたしの格好、寝巻きにサンダルすっぴんだぞ。世の女性が必死に隠してる男に見られたら幻滅される格好三種の神器揃えてんだぞ。いくら私が美人だからってもうちょい相手選べよナンパ男。
「つれないこと言わないでさー。あ、その荷物重そうだね、俺が持ったげる」
「電球しか入ってないんでクソ軽いですけど。ってか荷物返せ!!」
「いーからいーから。それよりこの辺に俺の行きつけの店が――」
「……――オイ」
煙草の臭いを漂わせた低い声が降ってきたのは、そんな時だった。
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ASK - 他と被らない設定、とても良いと思います。あまり甘々な絡みが好きではないので丁度いい (2019年5月21日 19時) (
レス) id: 49e118c28b (このIDを非表示/違反報告)
三文(プロフ) - 純野翠雨さん» コメントありがとうございます。個性の強い夢主は嫌われやすいかも、と密かに不安だったのでそう言っていただけると嬉しいです！よろしければ、引き続きお付き合いいただけると幸いです。 (2018年9月17日 0時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)
純野翠雨 - テンポよくお話が展開していってすごく面白かったです！ヒロインのキャラが読んでて楽しかった！ (2018年9月16日 21時) (レス) id: 13f3f7b214 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三文 | 作成日時：2018年9月3日 23時
