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◇一一◇





 いくら好まない相手でも客は客だ。別段話し込むわけでも、ましてや喧嘩を売るような真似をするわけでもなく。

 暖簾の奥に消えた黒髪を見送ると、私は再び暇を持て余し頬杖をついた。空調機の電源は電気代節約のためにつけられておらず、代わりに開けられた窓から初秋の涼やかな風と香りが漂ってくる。建物には私と土方十四郎のただ二人だけ。まあ、ロビーには私一人だけなのだけれども。

 ……たまには、こんな夜も悪くはないのかもしれない。

 柄にもなくそう思った矢先に、野郎が一つの面倒事を残していくなんてことなどこの時の私には知る由もなかった。













 銭湯で働く、というのは何も番台で暇そうに座っているだけでいいというわけではもちろんなくて。

 風呂場と脱衣場の掃除、備品の補充、その仕事は閉店後にも多岐に渡り。現在腰を悪くしている女将さんの代わりとして働かせてもらっている私は、そのどれもを全てこなさなくてはならない。


 それを見つけたのは、男湯の脱衣場を掃除していた時のことだ。


 脱衣場というのは身につけているものを全て置いておく場所であるから、誰かの落とし物なんかが出てくるなんてことは日常茶飯事である。毎日、とはいかないが一週間のうちに何回かは見覚えのない誰かの私物を目にする。

 だから、着物入れの籠に取り残された他人の私物があってもそれ自体はなんら可笑しいことではないのだが、今回ばかりは少し特殊だった。


「マヨ、ネーズ……?」


 そこに置かれていたのはマヨネーズ――正確にはマヨネーズの形を模したライターなのだが、とにかく今まで見てきた忘れ物の中でトップに食い込む勢いの珍品がそこにはあった。


「なにこの変な趣味のライター。一体誰が――あ」


 バッと脳裏によぎるのは、いつかスピード違反で取り締まられた際に件のライターで煙草に火を点けていた土方十四郎の姿。鋭い出で立ちには似合わないその小物に、思わず目が釘付けになったことを思い出す。


「よりにもよってアイツの忘れ物かよォオ!!」


 ――思わず飛び出たそんな声は、誰もいない脱衣場に虚しく響くばかりであった。

門→←湯



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ASK - 他と被らない設定、とても良いと思います。あまり甘々な絡みが好きではないので丁度いい (2019年5月21日 19時) (レス) id: 49e118c28b (このIDを非表示/違反報告)
三文(プロフ) - 純野翠雨さん» コメントありがとうございます。個性の強い夢主は嫌われやすいかも、と密かに不安だったのでそう言っていただけると嬉しいです!よろしければ、引き続きお付き合いいただけると幸いです。 (2018年9月17日 0時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)
純野翠雨 - テンポよくお話が展開していってすごく面白かったです!ヒロインのキャラが読んでて楽しかった! (2018年9月16日 21時) (レス) id: 13f3f7b214 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:三文 | 作成日時:2018年9月3日 23時

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