REAL ME

21 ページ21

＿


｢いいよ、大丈夫。
気を付けて行ってきてね｣

｢A、本当にごめん。
絶対今度時間作るから。…愛してるよ｣


そう言って電話は切れた。

我慢するの、上手くなったなぁ私。



下を向けば溜まった涙が堰を切ったように溢れ出した。





同時に、ぽつん、ぽつんと降り出した雨。



あーあ、もう、最悪。


傘も持ってきてないし、
もうどうでも良くなって
濡れながら駅まで歩くことにした。






･




｢おい｣


しばらく歩いてると後ろから呼ばれて。
雨が止んだと思ったらふわっと温かい温もり。


見上げると北山さんで、
傘をさしながら
スーツのジャケットを肩から掛けてくれた。





｢何してんだよ｣

｢帰ってます｣

｢彼氏は｣

｢来ません｣

｢傘は｣

｢持ってないもん｣



自分で説明したら傷口抉ってるみたいで
また涙が出てきた。






｢…来いよ｣


はぁ、と短くため息をついた北山さんは
私を引っ張ってずんずん進む。



地下に続く階段を降りれば、
小さくて薄暗いBARの扉を開けた。


マスターにいい？って聞いて
1番隅のカウンターへ私を座らせた。



｢ここならあんま見えないから｣

小さく呟いて私を隠す様に座る北山さん。


その優しさにまた涙が出てしまう。









やっと落ち着いて、
頼んでくれたお酒に口をつけた。


｢ん、強い｣

｢こういう時はアレだ。飲んで忘れろ｣

｢確かに。そんな気分｣



ブブっと震えるスマホを確認すると、
太輔からで。



太輔ごめん。泊まりになりそう





頑張って、
としか打てなくてごまかしてスタンプも入れた。



｢今日はとことん飲みます｣

｢お、いーね。付き合うわ｣








酒豪の北山さんに勝てるはずもなく、
あっけなく完敗。




｢きたやまさーん、つぎいきましょー｣

｢ばか。帰んぞ｣



ほら、って立たされて。

真っ直ぐ歩きたいのにフラフラしちゃうから
北山さんにしがみついた。




｢こら。｣

｢きたやまさん、かえりたくない｣

｢…待ってるだろ、彼氏｣

｢泊まりだもん。帰っても1人だもん｣

｢A｣

｢北山さん、…帰りたくない｣





無言でタクシーを拾って、
向かった先はホテルで。




戸惑う私を見て、

｢なんもしねぇよ。酔い冷めたら帰す｣

そう言って北山さんはフロントへ向かった。

22→←20

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す