仕事~53 ページ5
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大広間であの話があってから数日。
結局、誰が中宮祥子を護衛するのかは決まらなかった。だがまだAはそれほど慌ててはいない。
誰が護衛するのだろうか、もし自分がその役を仰せつかった時は、藤四郎の名に恥じぬよう努めなければ。
前田は簀子を歩きながら彼なりの心構えをして、ふと空を見上げた。
外は陽が沈む前の、あの眩しい朱で染まっている。あと一刻もすれば燈台が必要になるだろう。
閉め切られた部屋の前で立ち止まる。周囲を確認して戸を横に引いた。
骨喰「…Aは」
前田「ちょうど平野たちと梅ノ間で双六をなさっています」
部屋に入って妻戸を閉める。彼らの中央にいた乱が手元を凝視しながら何かをおこなっていた。
それを邪魔しないように、前田がそっと呼びかける。
前田「完成、しそうですか？」
乱「うん！あとちょっと…薬研、はさみ」
薬「ほら」
受け取ったはさみでパチッパチッと糸を切った。確かめるように指で引っ張って、表裏を見る。
ほっと息をつき、出来上がった小さな
乱「…できたっ！」
わあっと小さく歓声が上がる。ここにいる者たち皆が完成を心待ちにしていたようだ。
五虎退「乱兄さん、すごいです…！」
和泉守「ほぉ、器用なもんだな！」
蛍丸「よかった、間に合ったね」
信濃「？」
疑問符を浮かべた信濃に、秋田が満面の笑みで振り返った。
秋田「明日は、Aさまがこの本丸にきてくれた日なんです！」
信「えっ、そうなの？！」
そう、何を隠そう、明日はAの波乱万丈な(しかし当の本人はいたって平然としていた)本丸生活が開始した日だ。
乱「毎年お祝いできなかったから、今年こそはちゃんとお祝いしようって決めてたんだ！」
薬「壮大に宴をひらくぜ」
燭台切「ご馳走もたくさん用意するよ」
彼女の喜ぶ料理はなんだろうか。
Aだから、きっと何でも喜んでくれる。それでもやはり、彼女が好きなものを好きなだけ振る舞いたいと思うのは、至極当然のことだろう。
燭台切が考えを巡らせている隣で、乱は手の中のそれを見つめた。
Aと現世に出かける間も惜しんで、一人素材を買いにいった日は懐かしい。
あの日から少しずつ、全員で協力して作り上げた。
乱「(喜んでくれますように…)」
乱は願いをこめるように、そっと両手で包み込んだ。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2019年9月15日 1時
