仕事~52 ページ4
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長谷部「では、我々は平安時代へ行き、中宮祥子を護衛すればよいのですね?」
頷きかけて、Aは何か思い出したように顔を上げる。
『大事なことを忘れていた。今回の護衛任務を行うのは、一人だけと限られている』
にっかり「どうしてだい?」
『どうも人数が多いと歴史に異変が起きてしまうようだ』
それなら仕方がないな、と納得してくれたのを認めてAは立ち上がった。毎度恒例の挙手制で決めるようだ。
『今回の護衛任務をやりたい者は手を挙げてほしい』
ふっとその場が静かになる。
Aは広間を見回して、少し驚きをにじませた声で呟く。
『…いないのか?珍しいな』
今までなら、このような機会は必ずと言ってもいいほど大人数が手を挙げていたのだが、今回は誰一人挙手していない。
『戦闘はそこまで多くないと思われる。こんのすけが補助としてつくから、一人でも難しくはないはずだ』
髭切「う〜ん、一人が嫌というか…頼まれたらもちろんやるけれど、自分からやりたいって人はいないんじゃないかなぁ」
『? なぜだ』
Aは不思議そうに髭切を見つめた。そのあとで他の者たちにも伺うような目を向けるが、なんとも言えない苦笑が返ってくるだけだった。
しきりに首をかしげるAに、彼らは申し訳なくも仄かな笑みを浮かべた。
よその姫を護衛したいと願う者は、いない。
なぜなら、彼らにとっての姫はAだけなのだから。
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(おまけ)
藤原氏の系図をたどりながら、歌仙が著名な歌人を上機嫌に紹介している。その横で秋田たちが興味津々に話を聞いていた。
系図を見るともなく眺めていたAが、はっと何かに気づいたように立ち上がった。そのまま広間を出ていく。
「「??」」
戻ってきたAの手には筆と
それらを床に置くと、硯に小瓶の中身__墨汁を注ぎ、筆先を浸した。その一連の動作を彼らはポカンと見つめる。
『すまない、道長の息子兄弟が一人足りなかった。ええと確か…』
記憶をたどるようにして、Aはさらさらと系図に“頼宗(巌)”と書き足した。
その達筆な字が、他の文字と同じ筆跡をしている。
歌仙「…まさかこの系図、Aが?」
『ああ。図があるほうがわかりやすいだろう』
「「……」」
その思いやりに嬉しくなると同時に、その知識の深さに恐れ入った彼らであった。
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作者名:葛の葉 | 作成日時:2019年9月15日 1時