仕事~196 ページ6
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そんな莫迦な。ここは土御門殿で、たくさんの女房たちがいるのだ。不審者が侵入すれば騒ぎにならないはずがない。
そうだ、
＿＿＿＿無駄だ
彼女の心を見透かしているかのように、男は言い放つ。
＿＿＿＿もうじき貴様は
祥子の目が瞬時に凍りついた。
内裏に、戻る。あの恐ろしい内裏に。
祥子「……そん…な…」
刹那、脳裏に五条鶴丸の姿がよぎった。
内裏に戻れば、彼に会えなくなる。
嫌だ。戻りたくない。彼に会いたいのだ。会って、話して、そして、守ってもらうのだ。
だって彼は約束してくれた。守ると言ってくれた。
祥子「………約束…」
皮膚についた貝殻が、そのままじわじわと食い込んでいく。それは痛みもなく皮膚に入り込み、やがて見えなくなった。
どくんと、不穏な脈が全身を貫いた。おぞましい感触が皮膚の下から、異様な熱を生み出していく。
頭の芯がくらくらした。思考に
＿＿＿＿望みを、言ってみろ
促す声は、奇妙に甘い響きを持っていた。ぞくりと悪寒が生じて、
祥子「……望…み…」
会いたい。内裏に行くのは嫌だ。身代わりなどもうごめんだ。
祥子の瞳に
祥子「……そうよ、だって…」
Aは、彼の隣にいるではないか。瓜二つなら、彼女でもよかったはずだ。
健康そうに見えた。なんの不自由もなく、たくさんの剣士に守られて。
当然のように彼の隣にいて、当然のようにそこにいて。
重いものを全て、祥子に背負わせて。
何も知らずに安穏な生活を送っているのだ。
祥子「……
彼女がいる場所に、自分がいてなぜ悪い。
恐ろしい思いをするのは、彼女でもいいはずだ。
孤独な場所に追い立てられるのは、彼女でもいいはずだ。
祥子「もう……ここにいたくない…！」
胸の奥で、黒く冷たいどんよりとした生きものが、動いた。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
