仕事~239 ページ49
.
熙「漣さん、どうかしましたか」
漣「土御門殿に戻った中宮」
なんの前置きもなしに発されたその一言に、熙が息を呑んで瞠目する。漣は畳み掛けるように言葉を継いだ。
漣「マイフレンドは…あの子は、今どこにいる」
言葉に詰まった熙の様子に、漣が嘘だろうと呟いて深々と息をついた。事態を察していることがわかる。
熙「なぜわかったんですか、Aさんが土御門殿に入ったって」
漣「天使の気配はどんなに離れていても波紋みたいに届く。それが薄くなったってことは、強度の高い結界に閉じ込められたか瀕死かだ。
中宮護衛の任務に問題が生じたとき、上が中宮と瓜二つのあの子を代わりに土御門殿に入れるのなんて、容易に想像できる」
熙「…事実を述べて良いのでしたら、身代わりを提案したのは彼女自身です」
はっと顔を上げた漣は、しかし間髪いれずに返した。
漣「そんなはずない！」
熙「どうしてそう言い切れるんですか」
漣「そんなところに行けばどうなるのか、あの子が知らないはずがないんだよ！」
思いもよらない漣の言葉に、熙は逆に詰め寄る。
熙「どうなるのか、って…どういうことですか」
漣は顔を歪めて唇を噛んだ。
沈鬱な面持ちで黙っていた熙は、意を決した様子で漣を見た。
熙「言うつもりは、なかったんですが……土御門殿だけでは済まなそうなんです」
漣「は」
熙「先程、祖父から手紙が届きました。土御門殿に戻られた中宮が、近いうちに今内裏に入ると…」
怒られる。
そう思って熙は身構えるが、いくら待っても怒声は聞こえてこない。
そろそろと顔を上げて、熙は自分の目を疑った。
漣は、顔を蒼白にして、茫然と立ち竦んでいた。
漣「やめて、くれ…」
熙「れ、漣さん？」
漣「頼む、頼むから、そこには行かせないでくれ」
漣は震える手で熙の裾を引く。
漣「お願いだ。あの子を、内裏に、今内裏に入れるのだけは。それだけはやめてくれ」
このような漣を見るのは初めてだった。さすがの熙も狼狽えて、彼の肩を叩く。
熙「漣さん、落ち着いてください」
漣「あの子がまた、俺を置いて」
熙「Aさんには別のこんのすけが付いています。仲介役の者も彼女を救うために奔走しているんです。本丸の者たちも休みなしに」
漣「熙、頼む、お願いだ」
あの子を殺さないで。
そう言って、彼はその場でうずくまってしまった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1709人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
