仕事~235 ページ45
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『三日月、頼みがある。土御門殿へ私を連れていってほしい。あと平安貴族の…特に女の振る舞い方を教えてくれると助かる』
昼間、加州に乞われた三日月がAの部屋に訪れると、真っ先にそう投げかけられた。
彼女の容姿を見たまま茫然と立ちすくんでいる三日月に、淡々とAは事情を説明していく。
三日月「………」
常に彼の唇に点っている微笑みも、このときばかりは、消えていた。
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人のいない路を選んで、二人は土御門殿へ向かった。
実際は、熙から全てを聞いた麦が付いてきているのだが、
三日月はAの隣を、手をそっと導くようにして進んでいる。面布はまだつけていない。
『なあ……怒って、いるのか？』
先程から一言も話さない三日月に、Aがおずおずと切り出した。
三「＿＿＿＿＿＿」
袖を引いて躊躇いがちに問うてくるその姿を見て、本丸でずっと堪えていた何かがふつりと頭の奥で切れた。
『っ？！』
腕を掴んで小さな路に連れ込む。そのまま壁に追いやった三日月は小柄な身体をぐっと抱き寄せ、ほっそりとした顎に手をかけた。
三「……そう見えるか」
吐息のかかる距離で、清い瞳を覗き込む。
ああ、いっそ、このまま
管狐が警戒の気配を醸し出すのに気づかないふりをして、三日月はAから目をそらさずに告げる。
三「Aが望むなら、心を砕こう。力を貸そう」
抱き寄せる腕に力を込める。鼻先が触れる距離で、三日月はささめいた。
三「Aが望むなら、＿＿＿ここから拐ってやろう…」
恐ろしいほど静かに紡がれた言葉は、Aの鼓膜を冷たく震わせた。
美しい、月の浮かぶ瞳が真っ直ぐに据えられる。
『……そうだな』
怖じ気づいた様子もなく、彼女はさらりと返す。
『そうしたくなったら、今度、お前に頼むとしようか』
三「……」
三日月の瞳がふいに揺れる。堪えきれずに、額を彼女のそれに押し付けた。泣いているようにも見える微笑みが浮かぶ。
彼女がなんと答えるのかなんて、わかりきっていた。
でも。それでも。
三「本当に、俺はAのためであれば、なんだってするぞ」
愛しげに目を細め、やがて、そっと瞳を伏せた。
三「どうかそれを、忘れないでくれ……」
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
