仕事~233 ページ43
.
鶴丸が振り返ると、疲れた様子の前田たちが気落ちしたように肩を落としている。
前田「お役に立てず、申し訳ありません……」
薬研「そんな顔すんな。役に立てていないのは俺も同じだ」
簀子に上がる前田に手を貸しながら、薬研が頭を振った。
この分では、獅子王や歌仙たちも何も情報を得られていないだろう。
鶴丸は歯噛みした。焦れたように髪を掻きあげ、低く唸る。
彼と同じ部隊の燭台切が心配そうな面持ちで門扉を見やった刹那、背後の妻戸が開いた。
乱「…」
うつむいた乱がひっそりと姿を見せ、気づいた鶴丸は瞬きをする。
鶴丸「乱、どうしたんだ？ 確かAの部屋にいたんじゃ…」
語尾が徐々に小さくなっていき、やがて彼は呼吸すら止めた。
薬研たちも絶句したまま乱の背後を凝視する。
『……』
乱の後ろに、Aがいた。
袿姿の＿＿＿
誰もが一瞬、中宮がそこにいるのだと、そう感じた。
燭台切「そ…れ、A、どうしたの。そんな衣装、初めて見たよ」
動揺を隠しきれない燭台切が、代表して口を開く。
だが、Aは瞬きをひとつしただけで答えない。するりと乱の横を通り抜けて簀子に出、静かに鶴丸を見つめていた。その瞳が静かすぎて、鶴丸は言い知れない不安にも似たものを感じる。
ようやく口を開きかけた鶴丸より早く、Aは告げた。
『祥子様の代わりに、私が土御門殿に行く』
鶴「え……？」
一瞬、何を言われたのか、わからなかった。
絶句する鶴丸に、Aは決然と言い募る。
『私が行く。そっくりなのだ。誰も不審に思ったりしない。私が中宮として土御門殿に行けば、全て落ち着くと思う』
鶴「……ま、て…A、待ってくれ」
『中宮は消えてはいけないのだ。そんなことになれば、歴史が根本から変わってしまう。何より、お前たちの存在が
鶴「A、A」
うろたえてそれ以外の言葉が見つからない鶴丸に、Aはなおも続けた。
『鶴丸、頼む。＿＿＿＿祥子様を、助けてくれ』
鶴丸ははっと息を呑んだ。
自分を見つめるAの眼差しは静かで、一点の揺らぎもなく澄み渡り、強い意志の光を覗かせていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1709人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
