仕事~232 ページ42
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夕刻が近づいてきた。
鶴丸たちは交代で羅刹の行方を追っていた。だが、手がかりが何もない状態ではどこを探せばいいのか見当もつかなかった。
信濃「鶴丸さん、羅刹って妖鳥なんだよね？」
縁側で信濃が刀を腰にはきながら尋ねてくる。彼の部隊が都中を探し回ったが、それらしい影すらも見つけられずに戻ってきたのだ。
前田と薬研、獅子王の部隊も妖気を追って奔走していた。
その間Aは、政府へ一人で訪れていたらしい。鶴丸が色を失くして詰め寄ったが、彼女は
『綺麗なものを見たよ』
と静かに微笑むばかりだった。
だが、彼女なりに何か策を練っているのだと予測している。昼から加州と乱と三日月の姿が見えないのも、恐らく関係しているのだろう。
鶴丸「黒い大きな鳥だ。嘴は太くて、両翼は広げると一丈近い。足は枯れ木のように細く、あと」
腹部が異様に膨らんでいた。
祥子を取り込んだ羅刹は、甲高い咆哮を響かせて飛び立った。どろりと濁った目が喜悦に満ちていたのを、鶴丸は確かに見たのだ。
祥子の体を軸にして実体を得たことが、嬉しくてたまらないと言いたげに。
鶴「信濃、土御門殿の様子は」
どんな状態かそっと見てきてほしいと頼んでおいたのだ。
縁側に腰かけた信濃は、風体に似合わない硬い表情で口を開いた。
信「護摩を焚いて、近衛府とか陰陽寮とかの役人たちを集めて、周辺の捜索と無事帰還の祈祷を続けてる。……すごい褒美が用意されているらしいけど、中にはうんざりしてる人もいたよ。空気がささくれ立って、かなり切羽詰まった感じだった」
鶴「……中宮を土御門殿に返さないと、騒ぎが大きくなる一方だな」
中宮が戻らなければ、歴史が大きく変わることになる。何しろ帝の血筋に関わる出来事だ。天皇というのは歴史の中枢となる場合が多く、数多の刀との繋がりもある。そしてそれは鶴丸自身も例外ではない。
無意識に握り締めた拳が白くなり、まとう空気が数段冷たさを帯びていく。
鶴丸の様子を見つめていた信濃は、気配がしたのを感じて振り返った。
信「薬研、お帰り」
簀子に上がってきた薬研の顔が暗い。
鶴「手がかりは…」
薬研「何も収穫なしだ。すまん」
詫びてくる薬研に首を振り、鶴丸は立ち上がった。
鶴「日が暮れたら俺も出る。前田と獅子王の部隊が戻ってくるのを待って……」
言いかけたとき、足音が近づいてきた。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
