仕事~228 ページ38
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政府のオフィスにて、監査官はコーヒー片手に分厚い冊子を捲っていた。
机におすわりをして同じように資料を覗き込んでいた麦が、そういえば、と話し出す。
麦「先日、久しぶりに技術課が騒がしくなっていたんです」
監査官「へぇ」
麦はちらと監査官を見上げる。
この人は本当に、他者に関心を持たないよなあ。
麦「なんでも、重傷を負ったこんのすけが現地から強制送還されてきたと」
監査官「そう」
麦はまた、ちらと彼を見上げた。今度は批難の眼差しで。
同じ“こんのすけ”として、今の返事は聞き捨てならないぞ。よし、やはり言ってやろう。
麦「そのこんのすけ、Aさんの本丸の担当らしいんですよ」
監査官「っ！」
麦はしかし、今度は彼を見上げなかった。痛いほどの視線が上から突き刺さり、やれやれと小さく息をつく。
監査官「…………麦」
麦「はいはぁい。
私も詳しいことは把握しておりませんが、任務中に一定以上のダメージと本体の破壊によるエラー信号が送られ、慌てて送還させたようです。精密検査を終え、今は修復作業に入っていると技術課のこんのすけから聞いています」
監査官「任務中に…」
監査官はマグカップを置いて口をつぐむ。
十中八九、自分が仲介役をしている任務だろう。後で熙さんに聞いてみようか。
そうして何気なく顔を上げた時だった。タイミング良く職員の手で開けられたオフィスの扉、電子錠付きの扉に続く廊下の、その奥。
小柄な人影が一瞬、横切った。
麦「んええっ、ちょっと、どちらへ！？」
麦の素っ頓狂な声を背中に、監査官は外套を引っ掴むと廊下を駆け抜けて人影を追う。
勘を頼りにいくつか角を曲がったところで彼女の姿が見えた。彼は無意識に顔をほころばせる。
監査官「……Aさん」
ぴくりと肩を揺らして、小柄な少女は振り返った。
Aはきょとんと監査官を見上げる。
『久しいな。…いや、言うほど久しくはないのか。そんなに慌ててどうしたのだ』
今度は監査官が肩を揺らす番であった。
監査官「ええと、……君の姿が、見えたから…？」
『追ってきてくれたのか』
監査官「そっ……う。…そうだね」
実のところ監査官自身も、なぜここまで必死になって追いかけてきたのかわかっていないのだった。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
