仕事~227 ページ37
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『鶴丸……』
小狐丸「気を失っているだけですよ。傷はほら、今のでなくなりました」
不安げに呟いて鶴丸の手を握るAに、小狐丸が穏やかな声音を向ける。見れば、鶴丸の呼吸はゆっくりと規則正しい。
Aはほうと息をついた。そして、思い出したように瞬きをする。
『中宮は、見つかったか…？』
彼らの顔が瞬時に強張った。何かあったのだと、それだけで理解できる。
『何があった？…まさか、晟麻が』
背筋に冷たいものが駆け上がって、無意識に鶴丸の手を強く握り締めていた。
冷たい指先がかすかに動く。反射的に目線を落とすと、鶴丸がのろのろと瞼を開いていた。
鶴丸、とささやいたAに眩しそうに目を細めた彼は、小さな手を弱く握り返した。
鶴丸「……A……どうした…」
気遣うような言葉に眉を下げる。どうかしたのは鶴丸のほうではないか。なのに。
ぐっと言葉に詰まってうつむくAの様子を訝って、鶴丸は身を起こす。
鶴「心配かけてすまん、俺はこのとおり大丈夫だから…」
言いかける鶴丸に、Aは顔を上げて首を振った。
『違うのだ。鶴丸、祥子様は……』
鶴丸の顔色が変わったのを見て、Aは言葉を失った。自分の手を握る鶴丸の指に、不自然な力がこもる。
鶴「……中宮……は…」
言い差して、唇を噛んだ。
約束をした。守ると、それなのに。晟麻の目論見を阻むこと敵わず、化け物に呑み込まれた彼女は、行方をくらませた。
最悪の事態が起きているのを察して、Aはさっと青くなる。
Aの手を握ったまま、鶴丸は目を閉じてうつむいた。
鶴「中宮は……っ…！」
次いで発せられた言葉に、Aの瞳は音を立てて凍りついた。
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一同の揃った大広間で、まずAが語った。鶴丸の部隊と別れてから長谷部を残して本丸に帰還するまでの一切と、晟麻が成した
次に鶴丸が語った。中宮が、その化け物に呑まれたことを。
ここでくまなく明かされてゆく事実の数々に彼らは驚き、唇を噛み締め、時には動揺を見せた。
中宮を羅刹から引き剥がし、早急に土御門殿へ送り届けなければならない。そしてそれは、遅くなればなるほど、取り返しのつかない事態となる。
『────』
つ、と唇を結び、Aは目を伏せた。
彼女の微かな表情の変化に気づく者は、いなかった。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
