仕事~225 ページ35
.
「邪魔だ…！」
妖鳥の怒号が鋭く轟いた。
鶴丸ははっとした。化け物の放つ声は晟麻のそれと同じだ。
「邪魔だ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ……！」
両翼を広げると、漆黒の羽がばさりと音を立てる。立ち上る妖気が周囲の空気を穢していく。
全身を駆け抜ける戦慄を抑え込み、鶴丸は刀を構えるが、切っ先をどこに向けるか躊躇した。
祥子が、化け物の中にいるのだ。
鶴丸「……中宮…！」
約束をした。守ると。中宮祥子を守ると、鶴丸はAと約束をしたのだ。それを違えるわけにはいかない。
「娘はここにいるぞ。この俺の身の内に。この身を成すための軸として、ここに」
晟麻の声でけたけたと嗤った妖鳥は、やがてひときわ大きく咆哮した。
祥子の生まれ育った屋敷が大きく振動し、内側から崩れ落ちていく。放たれた妖力が衝撃波となって、屋根を突き破った。
己れを閉じ込めていた鳥籠を抜け出すかのように、化け物は翼を広げた。
鶴「待て…！」
鶴丸は必死で前に出た。逃してはならない。
化け物がせせら笑うように大きく羽ばたいた。翼の起こす突風が刃と化し、鶴丸に襲いかかる。反射的に刀で弾き返すが、続け様の攻撃で瞬く間に打ち破られ全身にそれを受ける。
一瞬の隙をついて飛び込んだ小狐丸が、すかさず太刀を払った。化け物の攻撃をすり抜けて翼を切り裂く。
数本の羽根が舞った。それが漆黒の刃と化し、小狐丸ではなく鶴丸めがけて襲いかかる。
小狐「なに…っ！？」
しかし、鶴丸の前に飛び出た厚と加州がその身を盾にして攻撃を受けた。
深々と突き立った刃は妖気を帯びた魔性だ。耐えきれないほどの激痛が生じ、加州は刀を杖に片膝をついたが、厚は堪えきれずに床にうずくまった。
鶴「加州！ 厚…！」
動けない彼らをめがけて、勝利を確信した化け物は最後の攻撃をしかけた。翼の巻き起こした妖気の風が渦を巻き、形なき槍となって放たれる。
鶴「＿＿＿＿＿っ」
息を呑んだ鶴丸の眼前を、突如として銀色のきらめきが横切った。化け物の妖気が霧散し、ばさりと音を立てて藤色がひるがえる。
厚「…、…せべ…！」
間髪をいれず横薙ぎに払われた刀の切っ先を、化け物は飛び退って回避した。忌々しげに低く唸った妖鳥は、そのまま外に飛び上がっていく。
鶴「待、て…！」
しかし漆黒の妖鳥は、瞬く間に夜闇に溶け込み見えなくなっていった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1709人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
