仕事~211 ページ21
.
抑えきれないほど激しい衝動が、絶え間なく彼の体を苛んでいる。気が狂うほどの苦痛であるはずなのに、彼は自我を保ち、笑みさえ浮かべているのだった｡
晟麻「もうすぐ…もうすぐだ…！」
激しく息を継ぎながら、晟麻はふらりと祥子の前に立った。微動だにしない祥子を、
晟麻「……長かったなぁ」
誰にともなく語りかけ、晟麻はけたけたと笑う。
晟麻「全てくれてやった。この身も食らい尽くせばいい。俺の魂も何もかも、お前の中で皆と混ざり合う」
祥子の表情は変わらない。ただ黙然と晟麻を見上げているだけだ。
気のないそぶりでそれを見ていた晟麻は、ふと瞼を震わせた。
晟麻「……そうでなくては面白くない」
時を置かずに、純白の剣士とその一派が飛び込んできた。
鶴丸「晟麻！」
叫ぶ鶴丸に振り返りもせず、怪僧は祥子の髪を掴んで引き上げる。そこで初めて彼女の顔に苦痛を訴える表情が宿った。
晟麻「愚かな刀剣よ、ここがどこだか知っているか」
突然問われて、鶴丸は絶句した。
ここは都のはずれにある小さな屋敷だ。人の手が入らなくなって久しいが、それほど古くはない。
鶴丸たちは法力を追ってここまで来たので、そんなことは考えてもいなかった。
背を向けたまま、晟麻は笑みをのせた低い声で語る。
晟麻「土御門殿では、今ごろ中宮が神隠しにあったと大騒ぎだ。神隠しのわけがないというのに」
厚「お前が連れ去ったからだろ！」
一歩前に出て怒鳴る厚に、晟麻はようやく振り返った。
晟麻「違うな。土御門殿から出たいと願ったのはこの娘。ここに来たいと願ったのもこの娘」
鶴「な…っ」
晟麻「この娘は、急激に運命が動き出す以前に戻りたいと思うあまり、この生まれ育った屋敷に帰ることを望んだのさ」
思いがけない晟麻の言葉に、鶴丸は目を見開いた。
周囲を見渡して確認する。ほとんど調度品は残っていない。家具も何もかも、あまり見当たらない。
かかっていたであろう御簾は無人になったと同時に誰かが持ち去ったのか。壊れかけた戸は、上げる者もいないので枠に埃がたまっていた。床も同様だ。
それでも、ここは彼女の生まれ育った場所だった。
全てが遠く不確かだったけれど、母と暮らし、父の訪れを待っていた彼女だけの場所だった。中宮が“祥子”だった頃の思い出が詰まった屋敷なのだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1709人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
