死神様のお仕事１１【刀剣乱舞】 (ページ17)

今日:22 hit、昨日:7 hit、合計:82,291 hit

仕事~207 ページ17

.

『…………

《謹請(きんせい)し奉(たてまつ)る…》』

必要なのは、そこに残ったものを読み取る力だ。

小さく小さく唱えながら、Aは意識を傾けた。

◆ ◆ ◆

怖かった。

たまらなく怖かった。

どうしてこんなことになってしまったのか、理由も知らされず。

夜の闇の中、甕から現れて殺戮を繰り返す生き物を見上げながら、彼はぼんやりと考えた。

ああ、きっとこれが。

祖父の語った、人を食う羅刹(らせつ)という化け物なのだ。

◆ ◆ ◆

『────────』

心臓が跳ねる。どくどくと痛みを伴うほどに強く。

たくさんの人間がここで死んだ。全く抵抗しなかったのに、一方的に殺された。

抵抗して逃れたとしても、地の果てまで追っ手がかかることを、彼らは知っていたのだ。

だから抵抗しなかった。あえて殺されることを選んだ。

たったひとり、一族の大切な子どもを逃すために。

微動だにしなかったAが、糸が切れたように崩れ落ちる。

青江「A！」

慌てた青江が膝をつく。その反対側に膝をついた長谷部が抱き起こすと、Aはがたがた震えながら目を見開いていた。

青江は息を呑んだ。焦点が拡散している。まずい。

青「A、どうしたんだい。……戻っておいで、A、＿＿＿＿＿引きずられるな！」

鋭利な声で叱咤(しった)され、それがAの意識を過去の亡霊から解放する。

大きく息を継いで、Aは身を起こした。

乱「A…大丈夫…？」

傍にしゃがみこんだ乱に頷いて、Aは片手を額に当てた。

『……少し、混乱している。…ええと、“かねいえ”って、人間の名前だよな？』

乱「かねいえ、さん？」

青「かねいえ…あの兼家のことかな」

長谷「藤原兼家という男がいたはずです。この時代だと、もう亡くなっていますが。

藤原道長の父親ですよ」

Aの顔がさっと青ざめた。

そういうことか。

広間を見渡して、Aは痛ましげに顔を歪めた。

『恨むのも道理か…』

ここにきて初めて表情が変わったAに、ついに乱がその腕にすがった。

乱「ねぇ、ここ、なんだったの」

ここは。

Aは言葉を選ぼうとして失敗し、一度目を閉じてから答えた。

『……渡来の小さな一族が、藤原兼家の刺客に皆殺しにされた場所だ』

.