仕事~206 ページ16
.
青江「はい。長谷部くんはこれを着て」
長谷部「、……俺は…別に」
青「おや、Aの厚意を無駄にするのかい？」
長谷「貴様…」
文字通りにっかりと笑っている青江を
長谷「……ありがとうございます。A様」
『待ってろ、青江のも』
青「僕はいいよ。それより」
断って、青江がAの手をとる。驚いて見上げると、青江はいたって平気そうな表情をしていた。霊に関する逸話持ちの彼も、慣れているのかもしれない。
青「Aが一人で行ってしまわないように、ね」
刀を持つ反対の手で彼女の小さな手を握り込む。少し目を見開いたAは、ばつが悪そうに視線をそらした。
『…進もう』
深呼吸して再び足を進める。青江と、乱の傍にいる長谷部が一瞬互いの目を見交わした。彼女だけではない、青江たちの心情としても、一刻も早くAをここから連れ出したいのだ。
一歩一歩進むごとに、Aは逸る鼓動を制する。もはや高揚よりも焦燥感が強くなっていた。努めて鎮めるように心がけ、心の先端を研ぎ澄ませていく。
唐突に、あの恐ろしい怪僧の姿が脳裏をよぎった。
Aは瞬時に理解した。ここは、晟麻につながっている場所だ。だから自分は奥に進まなければならない。
乱「……っ」
乱は息を詰めた。
足を進めるごとに心臓が冷えていく。これ以上ないほど激しく脈打っているのに、比例して手足は氷のようになっていく。すがるように長谷部を見上げると、彼も蒼白ながら、空いた手でそっと背中を支えてくれた。
『……ここは…』
廊を抜けて広間にたどり着いた一同は、そのまま硬直した。
床一面を、黒いものが汚している。黒の中に白いものが散っていた。歳月を経て風化し、それだけになってしまった
『…この黒いの』
確かめなくとも、それがなんなのか理解できた。
ここで何があったのか、朧気に推察することはできる。だがAが知りたいのはより確かなものだ。
青江の手を振りほどき、腰を落として一番近くにあった骨に指をのばした。
長谷「…A様……」
長谷部がかすれた声を発した。無言の青江が眉をひそめたのが気配でわかる。だがそれらに気づかないふりをして、Aは目を閉じ、言霊を紡いだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1709人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
