仕事~205 ページ15
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雨滴を払って戸に手をかけ、Aはそれを一気に引いた。
がたがたと音を立てて、木の戸が開く。Aは屋敷の中に足を踏み入れる。
注意深く様子を窺いながら土足で廊にあがり、長谷部が先導し奥に進んだ。
足を一歩進めるごとに胸が逸る。Aに限っては恐れだけではなかった。使命感からくる高揚だ。
空気がひどくよどんでいる。もうずっと閉ざされたままの空間なのだ。
青江「……乱くん、真っ青だよ、大丈夫かい」
Aと長谷部が振り返ると、乱と並んで歩いていた青江が色を失くしている。乱は震える手で青江の腕を掴んだ。
乱「ごめん……ボク…」
突然、ふわりと身体に何かをかけられ、乱は顔を上げた。
目の前にAがいた。さざなみ一つない水面を思わせる瞳が、ゆっくり瞬く。気がつけば、あれほど苦しかった呼吸が楽になっている。
乱は驚いた。
乱「A、これ…」
『霊力で編んだ衣だ。これで少しは楽になると思うが、無理して着いて来なくとも大丈夫だぞ』
乱「Aは、ここ、平気なの…？」
泣きそうな声の問いかけに一瞬たじろぎ、Aは頷く。常日頃こういう場所で仕事をしていたため、慣れてしまっていた。
慣れていても、つらいものは、つらいが。
長谷部「先程青江も言っていましたが、ここは、よくない場所です。
彼女の後ろから長谷部が気遣って促すが、彼自身も顔を土気色にしている。
青「怨念なんていう生易しいものじゃない何かが、隅々まで満たしているね。…無人の屋敷なんていいねぐらになるだろうに、生き物どころか、妖すらいない」
Aは周囲に視線を泳がせた。
こんなに激しい、肌を刺すようなおぞましい気配を感じたことはない。
できるなら外に出たい。だが、頭のどこかで彼女を
彼らは外に避難させて、自分だけで奥へ進もう。
そう心の中で決めたとき、青江がAの肩を叩いた。振り仰ぐと、僅かに笑みを浮かべた青江が指を立てていた。
青「さっきの衣、もう一枚だけ編んでもらえるかい」
なんとなく、心を見透かしたような声音だ。Aは紗に似た透明な衣を身に纏う。
脱いで渡すと、彼はそれを長谷部に差し出した。
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作者名：葛の葉 | 作成日時：2021年2月22日 1時
