みえないモノをみる。 【文スト】

白虎と相対＿＿参 ページ15

取り敢えず白秋を追い返して、珈琲を今度こそ味わって飲む。



「…………凛」



味わえませんて此れは。



『……あー、……よっ』



私は目線を暫く泳がせた後、玄関で立ち尽くす蓬髪の男に手を掲げて挨拶をした。

蓬髪の男──太宰は、そんな私の返事に気が抜けたように力無く笑った。



「……うん。……久し振りだね」

『はは、三年だからな』



太宰は私の隣のスツールに腰掛けた。珈琲、それもブラック。頭可笑しいんじゃねぇの。



「相変わらず苦い物が苦手？」

『えぇえぇ、相変わらず苦い物は無理ですよ』



口を尖らせ乍ら云うと、太宰は「御免御免」と笑った。絶対思ってないだろ。



『……真逆、本当に太宰が武装探偵社員だとはな……驚きだよ』

「もう二年間勤めているからね。尊敬してくれても良いのだよ？」

『莫ー迦、誰が誰を尊敬するって？ 逆だろ、太宰が私を尊敬しろよ』

「遠慮しておくよ、君みたいなおチビちゃんは此方から願い下げだね」

『ハァ───ッ!?誰がおチビちゃんですって!?』



私はバンバン机を叩き力説する。いや、若干手が痛いけれども。



『いいか、そりゃお前にとっちゃ殆どの人はおチビちゃんだろう。だがな身長をな、平均的に見ろ。いいか平均的にだぞ』

「はいはい」

『全国の女性が二十二歳の平均身長は158.9、私の身長は160.5！ ほぼ変わらないがだがしかぁし！ 決して低い事は無いのだ、判るか？』



はいはい、と云い乍ら太宰は珈琲を口に含んだ。

これ以上云っても無駄だと悟った私は、仕方無くスツールに坐り直す。太宰は淋し気に笑った。



「……うん、変わって無いようで何よりだよ」


『…………変わって無いように、見える？』



私が訊くと、太宰は肯いた。



「変わって無いよ。何時もと同じだ」


『……そっかぁ』



私は机に頭をぶつけた。そのまま机を見つめる。




『……そっか、そっかぁ』

「うん」

『私、頑張ったよ』

「うん、頑張ってた。テレビで見たよ」

『沢山働いた。色んな事知れたから、善かったと……思う』

「善かったね」




私は、微かに嗚咽を漏らした。ああ、本当。本当に。











『…………生きてて、欲しかったなあ……！』


「……うん、そうだね。本当に、……そうだね」

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