【男主】イタミシラズ【東京喰種】

38.不痛 ページ39

…辛いってどんなモノなんだろう。


西尾にボタンの留め方を教えて貰いながら、呟く。


A)錦さん…


西尾)ん？


A)つらい…辛いって、どんなモノなんですか。


西尾)…辛いってのは…苦しくなる、みてーな…


苦しくなる…


A)例えば…病気にかかった時、ゼーゼーなる、あの感じですか？


西尾)それも確かに苦しいって言うけど。
それとは違うモンだよ。


苦しい、辛い。
西尾が理解出来ている言葉を自分が知らないことにも、胸が痛くなってくる。

ｽﾞｷ___…


A)っ…


この胸の痛み、なんだろ。


A)……そういう色んな意味持つ言葉とか、難しいです。


西尾がAの制服の端を直しながら話す。


西尾)そうだな。
…ま、いつかお前にも分かんじゃねーの？
“辛い”ってヤツが。
ん、何とか着替えられたじゃん、良いんじゃね。


制服を着終わった自身を鏡越しに見つめる。


A)…………。


なんて言葉を返せば良いか分からず押し黙る。


西尾)…俺は明日の朝に金木とジーさんとの話終わったら自分とこに帰るから良いけど。
お前明日から仕事あんだろ？
…顔色クソ悪ぃから早く寝とけ。



時計を見ると既に夜12時を過ぎていた。

時間を認識した途端、眠くなってくる。


(寝る前にお礼、言った方が良いのかな)

A)…錦さん。


西尾)何。


A)…ありがとうございました。


西尾)ぁー、そういうの良いから。 早く寝とけって。


しっしっと追い払う手つきで部屋から出された。

ﾊﾞﾀﾝ。


目の前でドアが音を立てて閉められる。


A)…。


あんていくのカウンターへ戻るか自室へ戻って眠るか…。


悩みながら階下の音に耳を澄ませると、カップやソーサーを洗っているらしい。
カチャン、と陶器の擦れる音と、水の音がした。

手伝った方が良いか、と自分で判断して芳村の居る階下へと降りる。


芳村)…


A)…芳村さん。


芳村)Aくん。 まだ起きていたのかい。


A)お手伝い…しようと。


Aの発言に糸目を更に細めて微笑む芳村。


芳村)ありがとう、でも大丈夫だよ。
それより…朝から仕事覚えて貰うからね、寝ておきなさい。



自分だけでは力不足なのか。


A)…はい。


少し胸が痛むが、西尾や芳村の言うことは合っている。

自室へと続く階段を登りながら、Aは1人、ため息をついた。

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