「さよなら」なんて言わないで【男主】 (ページ23)

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憂鬱な日(8) ページ23

思えば散々な過去だった。遊びまくって女に刺されて此処に来る。

『鬱さん……顔色が、』

Aは恐る恐る僕に尋ねる。
ああ、僕は今そんなに酷い顔をしてるのか。なんてなさけないんや。

「……気にせんでええよ、なんもあらへん、寝れば治る」

でまかせでそう言うも、Aは見るからに信じてはいないようだった。自分の言い訳もたしかにまぁ苦しいもんな。

『……鬱、さん』

Aは俯き、何か小声で呟いた。

『僕、は、鬱さんがもしもあの時あの場所にいてくれなかったらなんて考えると……』

……は？

「っ、なんや急に、変なこと言い出すなお前」

Aにはそう言い放ったものの、彼の言葉にはどこが引っかかるものがあった。

……でも、何や？僕がいないと？
そんなこと、昔よく女の子たちに言ってたわ。
まあ確かにあの時は誰かと一緒にいないと、人生やってけなかったのかもしれんな。…特に金銭的に。
だが、過去は過去。

「……あぁ、最初会った時か」

同時に思い出した。なぜ彼がこんなことを言うのかを。
僕が全てを思い出す前に、Aがゆっくりと口を開いた。

『……僕は、鬱さんがあの時声をかけてくれなかったら、とっくに何処かで野垂れ死んでました。
それを、鬱さんは変えてくれたんです。……命の、恩人です、だから！』

そこまで一息で言うと、Aはがばっと急に顔を上げた。
それに少し驚き、反動で彼のことを凝視してしまう。

かちっと目が合う。

久々に見たAの顔は初めて会った時とは少しだけ違って見えた。

『……この世界にいる間は鬱さんの力になれる事なら、何だってやります』

「…………は、」

今までずっと抱え込んできた黒いものが全て違う何かに変わっていく。

『僕は、ずっと、お礼を言いたくて……』

僕が唖然としているので、それを見て焦ったのだろう。Aはまた俯き、口ごもった。

"何だってやる"か

よくもまあそんなこと、簡単に言ってくれるわ。
そう思いながらも、そのAの言葉を何度も噛み締める。

「本当に、なんでも？」

『…はい』

Aの目はもう覚悟を決めていた。

……なら、

「……今はいいや」

『っ、』

Aがなんでも言うことを聞いてくれるというのに、せっかくのチャンスなのに。
どうしてか僕はその時、身を引いてしまった。

「……お前はな、そんな簡単に人に全てを任せてもええんか？」

気づくと僕はAの肩を掴んでいた。