FORM 21 ページ45
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あの日のことを思い出していた。あの夜俺は自分の手でAを殺した。まるで音でも聴こえてきそうなほど残酷に。Aが守っていたもの、守りたかったもの、それらすべてをこの手で壊したんだ。
目の前にある酒は一体何本目だろう。記憶が飛ぶほど酔えたらいいのに、Aだけは全然消えてくれない。しばらくすると身体の芯が震えて、冷たい感覚を頬に覚える。流しても流しても止まらないそれを、流れなかったことにして眠る。
こんな風にあの日のことがフラッシュバックする日が週に2回ほどある。
でもこんな感情よりもずっと、Aへの愛情が溢れて止まってくれない。
あの日、机に伏して泣きながらうわ言のように言ったAの言葉。
『……好きだよ、愛してる』
その言葉だけで、俺はこの先なんだってできると思ったんだ。俺はもう、Aを傷つけたくない。
あの夏の日、初めてAの目を見たとき、花みたいだと思った。でもその花弁を落としたのは俺だ。だから、俺がその花弁を色あせないように包んで守っていく。こんなことで俺の罪が軽くなるなんて思ってない。それでも、Aの心に少しでも隙間があるのなら、俺に埋めさせてほしい。
俺は、Aがいないと生きている意味がないんだよ。
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詰まっていた仕事がようやく落ち着いてやっと明日は休みっていう日に、それはやってきた。
「……ミツ、ちょっと」
神妙な面持ちで千賀に呼び出された。この胸騒ぎは何だろう。
「ミツに、謝らないといけないことがある」
「…なんだよ」
「……Aさん、明日東京を発つよ」
ものすごい力で殴られたみたいな衝撃。絶望ってこういうことを言うのかな。いや、俺が絶望を語ってはいけないんだ。狼狽えながら、なんとか話を聞く。
「本当にごめん。でもAさんからミツには言わないでって言われてたんだよ。だけど、俺にはそんなことできない」
「……」
「Aさんのこと、好きなんでしょ?今すぐ行ってあげないと」
「…分かってるよ。でも、」
「俺だって好きな人の泣いてる顔なんか見たくないんだよ!!俺も助けたかったけど、Aさんが求めてるのはミツなんだよ!?」
今まで見たこともないような剣幕で声を上げる。
「Aさんのこと一人にしたら、絶対に許さないから」
まっすぐな瞳を受ける。唇を噛んで、俺は地を蹴った。
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One Kiss 22→←The side of Kento
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作者名:わ! | 作者ホームページ:http://twitter.com/mi2_lxxx
作成日時:2018年10月18日 14時