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FORM 17 ページ36



Aの返事がないことにどうしようもなく苛立って、ハイバックのソファに胡坐をかきながららしくもなく一人で酒を空けていた。ロックグラスに残った酒を一口で飲み干してぼんやりとガラステーブルを見つめていると、インターホンが鳴った。


扉を開けて合わせた瞳に光は宿っていなかった。玄関から先に入ろうとする気配は、ない。


「なんですぐ返事しねえんだよ」


それでも俺は、分かりやすく怒気のこもった声で問いかける。


「仕事してた」

「本当に?」

「本当」

「じゃあ飯は?食ってねえんだよな?」

「いらない」

「ふざけんな」

「ふざけてるのはどっちよ」

「あ?」


本当は全部分かっていた。Aにはやましいことがあるって。俺の連絡に返事をしないで誰と何をしていたかも、もうなんとなく分かってしまった。

でもそれ以上に、俺が一番狡いことも分かっていた。
つまらないプライドのためにたくさんの人を傷つけていることも、俺自身がよく分かっている。


「あんな記事出て、大丈夫なの?」

「他人事かよ」

「だって他人だし」

「そうだな、お前には関係ない」


どうして俺は現実を突きつけられるほど、Aを突き放そうとしてしまうのだろう。大切にしたいはずなのに、どんどん壊していく。


「もう帰っていい?あなたに話すことは何もないの」

「本当に何もないか?」

「私たち他人でしょ、あなたには関係ない」


本当にこのまま帰すのか?俺はどうしたいんだ?後にも先にもAしかいないのに、俺は何やってんだよ。


だけど、



俺が本当の気持ちを伝えたところで、一体何が変わるって言うんだ?好きで好きでおかしくなりそうなのに、詰められない距離は何なんだ?


物憂げに斜め下を見つめるAは、何考えてるんだよ?


…なんて、俺が言えたことじゃねえよ。



「…そうだな」


消え入りそうな声でええ、とだけ残して行ってしまった。







「……はぁ…」


とぼとぼとまたソファに腰掛ける。なんで俺は傷つけることしかできないんだろう。


本当は全部口に出してしまいたいよ。


大好きだ、


大切に思ってる、


俺のそばにいてほしい。



そんな言葉の全てが、Aの前では意味を成さない。



どんどん、わからなくなる。




ただ一つわかるのは









笑顔のAがどうしようもなく恋しくて








その存在に焦がれて









今俺は泣いているということだけだ。




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作者名:わ! | 作者ホームページ:http://twitter.com/mi2_lxxx  
作成日時:2018年10月18日 14時

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