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tune.8 ページ8

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「‥‥でっか‥‥」

新しい制服に身を包み、資料諸々を詰め込んだ鞄を肩にかけ直した。
視界に広がるのは、私立という点を差し引いてもかなり広大な敷地面積を誇る夢ノ咲学院。
今後しばらくの任務地であり、一時的に私が通う学校である。

「えぇと‥‥」

確か受付を通らなければいけなかったはずだ、と校内図を広げる。職業柄、地形や建物の構造を把握するのは得意だが、こうも広いとやはり実地と地図の照らし合わせが必要になる。

「そこのあなた」

突然声をかけられ顔を上げると、眼鏡をかけた男性がこちらへ歩いてくる。資料で見た顔だ。

「あなたが、ボーダー隊員の?」

「あ、はい。千田Aです」

「初めまして、アイドル科教師の椚章臣です。
中へ案内するのでどうぞ」

どうやら煩雑な入校手続きはしなくて済むようだ。上層部の根回しに感謝である。
人気が少ないのは、授業中だからだろうか。遠くから、生徒のものらしき掛け声が聞こえる。

「本当に大きいですね、ここ」

「夢ノ咲学院は学科が多いですからね。
それにしても、まさかこの広い敷地を守るのが一人とは思いませんでした」

彼は純粋に驚いているようだった。当然の感想である。その派遣された隊員が17歳ということもあり、驚きもひとしおだろう。
私もここの敷地面積を知ったときは「この範囲を、一人で‥‥?」となったのだから。いくらなんでも無茶が過ぎる。

「自分で言うのもなんですが、実力はあると自負しているので、ご安心ください」

「あぁ、あなたの実力を疑っているわけではないんです。不快に思わせたのなら謝りましょう」

「いえ、先生の感想は至極自然なのでお気になさらず」


職員室で、打ち合わせや先生への挨拶だ何だと手続きに追われていると、あっという間にお昼を回ってしまった。

お腹は空いているが、本格的に教室に顔を出すのは明日からなので無闇に校内を歩き回るのも考えものである。

「‥‥おっ、おまえがもしかして?」

椚先生と話していると、背後から顔を覗き込まれる。ぎょっとして横にずれると、「あまり驚かせないでください、佐賀美先生」と椚先生が窘めた。

白衣を着たこの教師───「佐賀美陣」もかつては有名なアイドルだった。どんなもんかと過去の映像を見たり検索したりしてみたが、その時の彼と今の彼は随分と雰囲気が違って見えた。本来の佐賀美陣は今目の前にいる彼なのだろうか。

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夏向(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます。めちゃくちゃ原動力になります!! (2021年5月16日 22時) (レス) id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - れいゆふさん» ありがとうございます。そういったコメントを頂けると作者冥利に尽きます…!! (2021年5月16日 22時) (レス) id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
りん - とても面白かったです!続きがとても楽しみです! (2021年5月16日 15時) (レス) id: 5a0e3d3105 (このIDを非表示/違反報告)
れいゆふ(プロフ) - めっちゃ好きです!更新楽しみにしております! (2021年5月12日 3時) (レス) id: e48528e707 (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - 星宙*°さん» ありがとうございます。感想めちゃくちゃ嬉しいです…!のんびり更新の上どこまで続くかわかりませんが、最後までお付き合い頂ければ幸いです^^ (2021年5月11日 22時) (レス) id: fd39a6918d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:夏向 | 作成日時:2021年3月31日 16時

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