水底のキミ【奈良坂透】 (ページ10)

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陰翳ページ10

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「‥‥おっまえ、難儀なやつだな〜」

「うるさい」

「Aがしてることに口出すつもりはねーけどさぁ‥‥あんま無理しすぎて倒れんなよ」

「？なんで倒れんのさ」

「働きすぎとか？寝不足とか？気の遣い過ぎとか？いろいろあんじゃん」

Aはわかったようなわかってないような、微妙な顔で「なるほど」と呟いた。お前、とりあえずそう言っとくかみたいな本音ダダ漏れだぞ。

溜息をついてから、夜空を見上げた。三門は星がよく見える。
星座は知らないので、なんとなくぼんやりとそれらを眺めていると、「米屋はさ」と背後から声がした。

立ち止まって振り返ると、Aは足を止めたままアスファルトに伸びる自身の影に視線を落としていた。
その目に垣間見えた底知れない何か(・・)が、すっとオレを捉える。

「───やっぱいーや」

「はぁ？気になんだろ、最後まで言えよ」

「私に変に気ぃ遣ってるのがあんたらしくないな〜って思っただけ」

「いやいや絶対違うだろ」

スタスタとオレを追い越して行く背中に、「ちょい！」と半ば非難めいた声を投げれば、顔だけくるりとこちらに向けて、「早く行こ。防衛任務あるんだから」と微笑んだ。

月光の下で見せたその表情は、ぐっと言葉に詰まってしまうほど綺麗だった。

「───おまえ、女狐みてぇ」

「はぁ〜？失礼ね」

「その顔で何人の男黙らせてきたんだよムカつく！」

「ちょっ！やめてよねその言い方！」

はは、と笑いながら彼女の背中を軽く叩いて宥める。むくれつつ再び歩き出すAは、何も知らなければごく普通の女子高生に見える。多分そう見えるようにしている(・・・・・・・・・・・・)。基地でのAと、基地の外でのAは違う。

(‥‥やっぱ難儀なやつだよ、おまえ)

そこまで明確に線引きする理由は知らないし詮索するつもりもないが、「使い分けている」ことを知っていると、友人としてもやはり思うところがあるわけで。

それを直球で伝えられないオレ。我ながら呆れて溜息が出そうだ。

オレにできるのは、そんな彼女を「星宮A」ではなく「出水A」として接してやることだけだ。

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