心配 ページ5
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「A、今日はちゃんとお弁当持ってきたんでしょうね？」
「も〜歌歩ってばお母さんみたい。持ってきたよ、ホラ」
一昨日から2日連続で弁当を家に忘れたことで、同じクラスで友人の三上歌歩に まさか今日も忘れたのではと心配されてしまった。
弁当の包みを掲げれば、「よろしい！」と笑顔を浮かべた。
いつも通り、開放されている屋上へ向かいつつ雑談をする。
「Aってちょっとしたところで抜けてるから心配」
「大事なところでは忘れないよ？」
「とか言って、こないだ台本持ち帰り忘れたって聞いたけど？」
「げ。アイツ何変なこと喋ってんのよ‥‥」
「世間話がてら聞いたのよ。“Aをよろしく”って」
「アイツの中では私は何なの？ 子供？」
「ふふ。それだけ心配してるし大事ってことでしょ。もしかして出水くんってシスコンなの？」
「まっさかぁ」
がちゃり、と屋上へ続く扉を開ければ、「お！ 来た来た こっちこっち！」と明るい声が響く。その瞬間、さっと視線が集まって、すぐに散っていく。
相変わらず人目を憚らないなと思いながら歌歩と駆け寄れば「遅〜い」と、声の主───宇佐美栞が笑った。
「ごめんごめん、授業が長引いてさ」
「B組、今日の4時間目は数学だっけ？ あの先生しょっちゅうオーバーするよね」
ミックスジュースのパックを振りながら、「ひゃみ」こと氷見亜季が呟いた。それ、と頷きながら、4人で弁当を広げる。
そういえば、と栞が声をひそめて尋ねてきた。
「A、ドラマの主演決まったんだって？」
「‥‥え、それ誰から」
「いずみんが言ってた」
またアイツか、と頭を抱える。これはまだ公表してないことだから他言するなと言ってあったのに。
「あ、台本ってもしかしてそれのこと？」
「どんな話？ 恋愛モノ？」
歌歩とひゃみが立て続けに尋ねてくるが、まだ秘密だからだめ！と手で制する。それにしても情報漏洩がひどすぎる。
「撮影と副業と学校の両立で絶対無理するから頼む、って言われたんだ。ちゃんと口止めはされたよ。ひゃみちゃんとみかみかにも必要なら話通してって」
「コンプラもへったくれもないじゃん‥‥」
「でも出水くんの心配もわかるかな。A、すぐに無理するから」
「‥‥ひゃみ〜」
「日頃の行い」
「ゔ」
3人から一蹴され、むぅ、と卵焼きを口に放り込んだ。
誰か味方してよ、とぼやきたくなったが、口を揃えて断られることはわかっていたため、一人口を尖らせた。
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作者名：夏向 | 作成日時：2020年9月17日 21時
