日常 ページ4
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私は可能な日は大抵早めに学校へ向かう。
特別な理由があるわけではなく、ただ 人の熱気で溢れていない、どこか寂しい雰囲気の教室や校舎が好きだからというだけだ。
ぽつぽつと生徒がいるだけで、他はかすかに遠くから吹奏楽部の練習の音や、運動部の掛け声くらいしか聞こえない。不思議と心が落ち着いて、それに気づいてからは人の少ない時間に登校するのが習慣となった。
そして早めに行くと、必ず一人のクラスメイトがいる。早朝登校の私よりも早いため、以前 何をしているのかと問えば、勉強だと答えられた。六潁館の生徒としては模範的である。
ただ一つ、模範的生徒として参考にならないのは───彼が、ボーダーのA級隊員だということである。
「───おはよ、奈良坂」
そっと声をかければ、シャーペンがノートを滑る音が止む。
彼のさらりとした茶髪が揺れ、静かな瞳が私を捉えた。
「おはよう。今日は早いんだな」
「昨日は仕事が早く終わったからね〜」
「そうか」
私の芸能の仕事についてはクラスのみならず、ほぼ学校全体が知っている。中学の時は雑誌の表紙やCM、バラエティやドラマも出演していたため、顔もよく知られている方だ。だから、六潁館入学後に噂が広まるのも早かった。
幸いというか必然というか、この学校は進学校だということもありマナーやその他諸々がきちんとしている生徒がほとんどだった。そのため、うるさく騒ぎ立てられることもなく、今のところ平和な学校生活を過ごせている。
ボーダー提携校という点を特例的に適用してもらっているので、補習で会うこともありこの学校の同学年の隊員は大体知り合いだ。奈良坂と話すようになったのもそれがきっかけだった。
「こないだ出されたレポートっていつまでだっけ?」
「月末だ」
「オッケー、ありがと!」
奈良坂はクラスでも隣人同士であるため、会話は結構ある。クールで口数は少ないが、チョコレート菓子を食べている時はわかりにくくも どこか上機嫌な様子だったのを見て、意外と可愛いところあるんだなと思ったことがある。
「ちなみに今日数学の課題提出だぞ」
「ふっふ〜ん、バッチリだよ。
あっ そうそう、英語で奈良坂に聞きたいところあったんだ」
「どこだ?」
話したいときは話して、やることがあるときは沈黙。そんな当たり障りのない関係だ。
彼との時間はどこにでもあるようなものだが、充実していて満足している。
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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時