水底のキミ【奈良坂透】 (ページ22)

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人物像ページ22

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肩を掴むAの手が少しだけ震えていることに気づいた。彼女の目には薄く膜が張っており、おれの記憶のある限りここまで感情を露わにするところは初めて見た気がした。

「‥‥ごめん、それだけ言いに来た」

Aは、はっと我に返ったように肩から手を離した。察するに、話を聞いてからすぐおれの元に来たのだろう。そう考えると、珍しすぎる彼女の感情の昂りっぷりに少し苦笑した。

Aは太刀川さんと柚宇さんに突然の訪問を謝罪し、ぱたぱたと隊室を出ていった。
結局何の話だったのか説明されなかった2人は、おれにそれを求めるように視線を向けた。

「‥‥アイツ、おれが命懸けで遠征行くのに自分は何もできないって、結構気にしてたみたいなんすよね」

「そりゃAは非常勤のエンジニアだし仕方ないだろ。そもそも機密扱いなんだし」

「本人にはそんなの関係なかったみたいっすね。
で、さっきのは、晴れて自分が遠征艇の開発・整備チームに加われたっていう報告をしに来たみたいです」

なるほどね〜、と柚宇さんが納得したように頷いた。「真っ先に報告しに来るなんて、ちょっとAちゃんらしくないけど、それだけ嬉しかったんだね」

「あいつイマイチ何考えてるかわかんねー時あるし、いつもあんくらい単純だといいのにな〜」

「何考えてるかわかんない時って？」

「あ〜、なんつーか、Aと話してても一線引かれてるというか‥‥漠然としたやりにくさみたいな」

太刀川さんの言葉に「それ、ある意味であいつの本心っすよ」と返せば、わけがわからないという顔をされた。

「太刀川さんめんどくさく思われてんじゃな〜い？」

「俺あいつに何もした覚えないんだけど」

「そういうとこだったりして〜」

些かショックを受けたような顔でおれに助けを求める目を向けた太刀川さん。
「逆っすよ、逆」と苦笑した。

「太刀川さんに心許してる証拠です」

「Aが？俺に？一線引かれてる気がするってのと矛盾してねぇ？」

「アイツちょっと変なところあって、仲いい人ほど壁作るんですよ。心を許してるからこそ自分の本心が出そうで、多分Aはそれが怖いんだと思います。
やりにくさはまた別だと思いますけど」

これは長年彼女を見てきたからこそわかることだ。興味ない・嫌い・友達あるいは知人の域を出ないのどれかに当てはまる人にはそもそも「星宮A」として接する。

面倒そうな生き方をしてるなと思うが、それが彼女の世渡りの仕方なのだろう。