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衷心 ページ18

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「‥‥1つ、純粋に気になったんだが」

「んー?」

「学校と仕事と、両立は難しくないのか?」

問題を解く手を止め、出水は視線を上げて少し唸った。「あんまり考えたことないな、難しいとか、簡単とか」

難しそうに見える?と問われ、まぁ多少は、と返す。
決して彼女の学力を低く見積もっているわけではないが、それでも芸能という仕事をしながら進学校に通い成績を維持し続けるのは、それなりに努力も体力も気力も必要なはずである。

「楽では、ないよね、そりゃ。
───でも、女には賞味期限があるからね。モデルとかやってると、特に」

無意識に、眉根に皺が寄るのがわかった。「‥‥“賞味期限”なんて言い方は、好きじゃない」

まるで女性芸能人をコンテンツとして消費しているような言い方だ。彼女らだって生身の人間である。
けれど彼女の言う「賞味期限」とは、芸能界でも世間一般でも、言ってしまえば馴染みのある考え方だ。女性アイドルは男性アイドルより早く卒業するし、女性モデルだって入れ代わり立ち代わり顔ぶれが変化する。「そういう流れ」は、もう大衆の需要に合わせれば仕方のないことだし変えることも難儀だろう。

好きじゃない、というのは、単なる俺の個人的な意見に過ぎない。


「‥‥奈良坂のそーいうとこ、結構好きよ、私」

「そうか」

「そうか、って」小さく笑った出水は、持っていたシャーペンをくるりと回した。


「‥‥賞味期限が、あったとして。それで、出水が六頴館に来ることと繋がりがあるのか?」

「勿論あるよ。
───私の想定してる自分の賞味期限が外れて、思ったより早かったとき。それは私がただの“出水A”に戻るときで、つまり芸能界で必死に積み重ねた経験が全部パーになる時でしょ」

くるり、くるり。
彼女の小慣れた指使いで、何度もシャーペンが回る。それを目で追いつつ、続ける。
「そうなったとき、もし勉強を疎かにしてたら私には何も残らない。進学する選択肢はないし、就職する選択肢も狭くなる。でも誰も責任はとってくれない。“勉強してなかったお前が悪い”で全部済まされちゃう。
私が女優やってたとかそんなの関係ないんだよ、周りにとっては」

当たり前だけどね、とシャーペンを放り投げて伸びをした。
出水の口調は、不平不満を言っているようなものではなく、ただ事実を述べるような淡白な口調だ。

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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時

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