印象 ページ11
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「おー、重役出勤奈良坂くん。おそようさん」
「何だ、そのどこかの漫画にありそうな呼び方は。
おはよう」
夜の防衛任務後はいつも仮眠をとるため、昼前に登校することが多い。
クラスメイトであり隣人でもある出水Aは、それをたまに茶化してくるのだ。他意はないようだから特に嫌な気分になったこともない。
「現国のノート、明後日提出だって」
「そうか。ありがとう」
「それから、これこないだの化学のノート」
「いつも悪いな」
「なんの。私だって奈良坂にはお世話になってるし」
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出水Aは基本的に明るくて社交的な人間である。
初対面の人間との距離を縮めるスピードも凄まじく、あっという間に懐に入っていく。その人柄が、彼女の芸能界での成功を手助けしたのだろう。
一挙手一投足が洗練されており、自然と人目を引いた。
彼女が廊下を歩いているだけで、生徒の視線が集まる。表立って騒がないのが六頴館のマナーの良さだが、やはり校内に有名人がいるというのは、年頃の学生にとっては特別らしい。ボーダー隊員とはまた違った好奇の目で、誰もが彼女に注目している。
出水A本人は、さしてそれらを気にする様子もなく学校生活を過ごしている。人目に晒されるのは慣れている、と言わんばかりに。
以前それについて、疲れないのか、と尋ねたことがある。
彼女と知り合ったのはボーダー隊員のための補習でのことだった。当時は入隊したてでまだ知られていなかったが、三輪や辻、出水が正隊員として学校で名が広まったということを聞き、漠然とした興味と不安があった。
その質問に対し、彼女は少し笑ったあと「
言外に、その質問に答えることを拒否されたような気がして、それ以上詮索することをやめた。だから、実際のところどうなのかは今でも謎である。
俺は結構すぐに慣れたし、四六時中晒されているわけでもなかったから、疲れるなんて感じたことは無かった。
けれど彼女は違う。
確かに俺とは立場が全く異なったし、俺自身が参考にするような機会も訪れなかった。
話を戻そう。
出水Aは明るく人当たりがいい。これは学校での彼女を知る者全員の共通認識である。浮かべる笑顔は誰もを安心させた。
けれど俺は違和を感じている。
まるで、「これが自分である」と周りに言い聞かせているような、その笑顔に。
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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時