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コートを羽織らないと、夜はまだ少し肌寒いくらいの気温。
30cmくらい離ながらも、並んでゆっくりと海辺を歩く。
「海なんて、何年振りだろうなぁ。」
「そんな！？
俺結構来んだけど、夜の海って、なんか見てると安心すんだよね。」
渡辺くんが止まって石段に腰を掛けたから、私も隣に腰掛ける。
「ちょっと分かる気がする。
でも、全部飲み込まれちゃいそうで、ちょっと怖い気もする。」
渡辺くんは急に黙り込み、何かを考えているようだった。
なんだか今は邪魔しちゃいけない気がして、波の音を静かに聴いていた。
「…あのさ、」
「うん」
「この前は、急にごめん。」
「もう気にしないで？
あれは、私が元気無かったから、元気付けようとしてくれたんだよね？」
渡辺くんに抱き締められた意味は、私を元気付けるためだって思うことにしていた。
「違くて」
「えっ、」
「…俺、目黒に嫉妬してる。
佐藤が目黒のこと相談してきた時もだし、あの日もきっと目黒のことで悩んでんだろうなって思って。」
「…っ、」
「そんな姿見てたら、なんでその相手は俺じゃねーんだろうって悔しくて、気付いたら抱き締めてた。」
「佐藤からしたら訳分かんなぇよな、ごめん。」
渡辺くんが一生懸命話してくれる言葉を聞いているけど、驚きで上手く言葉が出てこない。
「もっと困らせるかもしれないけど、これ以上隠せそうにねぇから言わせて欲しい。」
「俺、佐藤のこと好きだわ。」
「……。え、っと、」
「今すぐ答え出して欲しいと思ってないし、なんなら俺今劣勢だと思ってるから。
ただ、俺がちゃんと佐藤のことを想ってるって知って欲しかった。」
渡辺くんはただ真っ直ぐ前を見ていた。
「…ありが、とう。
ちゃんと、考えるから。」
「ん、こちらこそ聞いてくれてありがと。」
想いはちゃんと届いてるのに、そんなありきたりなことしか言えない自分が情けない。
「まぁ、目黒に嫉妬してるって言ったけど、これからもなんか悩んだら話せよ？
佐藤の相談先が俺じゃなくなるのは、それはそれでやだし。」
「えっ、そんな難しいことを…」
「ふはっ。
まぁ、あんま考えすぎねーで、これからもっと知っていってくれればいいってこと。」
そう言って、渡辺くんはいつものくしゃっとした可愛い笑顔でこちらを見ていた。
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作者名：まりも | 作成日時：2021年2月22日 9時
