. ページ8
夜の帳が落ちた空に満月がぼうっと浮かぶ。辺りを照らすのは月の光だけ。
物陰に隠れているのは高杉。そしてそれに近付く桂は、高杉を心配したのか「今度こそ勘当されるぞ」と声を掛けた。
高杉は桂に心配いらねェよと言う。もうその前に、勘当されるようなことをしたのだ。
いつも自分に突っかかって来る講武館の生徒たちを、たった一人で全員倒してしまったのだから。
後悔はしていない。逃げ出す覚悟は出来ている。
「桂。お前こそこんな所で夜遊びしてたら、折角の特待生も取り消しだぜ」
「心配いらん。丁度、くだらんゆとり教育にはうんざりしていたところだ。――夜になる前に逃げるよう伝えておいた。借りは返さんとな」
二人は知っている。
この夜の闇に紛れて蠢く卑劣な力を。あの塾を消さんとする闇を。
二人が関与しなくとも、きっとこれは始まっていた。少なくとも、この村にいる侍やその端くれたちは、彼らをよくは思っていない。遅かれ早かれ、この結果は変えられなかっただろう。
――子供の力で何とかできる問題ではない。
だが、少しでも時間稼ぎになるのならば。どんなことでもしてやる。そんな思いがあった。
「名門講武館きっての神童と悪童が組むんだ。役人の足止め位、たやすかろう」
「名門の二人? 笑わせるな。国家転覆を狙う反乱分子を育成する悪の巣、松下村塾の悪ガキ三人の間違いだろ」
「――…………」
「A、どうしました?」
松陽の隣を歩いていたAが突然顔を上げた。じっと歩く先を見つめ、今にも駆けだしそうだ。
「……嫌な臭いがする」
「臭い、ですか?」
「うん。――……腹の底が、煮えくり返るような臭い」
顔を顰めるAは肩から下げる打刀を、ぎりりと掴んで握る。
「A、きっと、君の脚の方が私よりも早いでしょう。先に行ってください」
「うん。……何をしてもいいの?」
「やりすぎてはいけませんよ」
それを聞くや否や、Aはまるで猫のように夜の闇に姿を消してしまった。
205人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時