右眼の誓い 後 ページ44
× × ×
「――あッ、がああぁぁあ!!」
男のしゃがれた声が響き渡った。数名の黒装束の男達が蹲り震える男に駆け寄り、血でぬらぬらと光る刀を持った女を見上げる。
黒い髪を炎の中で散らし、頬を流れる鮮血をぐっと拭って女は不敵に笑った。
「"あの日"と……全く同じ光景だな。頭領」
「何をしているんだ、A……お前、一体何の狙いが……」
「――私が、黒狗の衆の頭領になるんだ。お前みたいな無能じゃ話にならない」
その一閃が、確実に命を奪った。どさりと落ちた男の亡骸に縋りつく他の男達は、ぶるぶると震えながら女――神薙Aを見つめる。
眼前にいる絶対的強者に、誰もが打ち震え、服従の意を示す。それを見届けたAは流れる動きで刀をしまい息を吐いた。
柱の割れる音を聞いて立ち去ろうとする彼女は、突然脚を止めてそっと耳を澄ませた。何かが聞こえた。
――どうか、銀時たちを守ってあげてくださいね
炎に囲まれながら、ふと、そんな言葉を思い出した。懐かしい声だった。優しくて、暖かくて、眠たくなってしまうような、そんな声だ。
松陽、そう、誰よりも何よりも、救い出そうとしたかけがえのない、たった一人の男。
がらがらと音を立てて崩れ落ちていく建物を後ろに、頭領と呼びかけられる。ここは危険だ。
Aは短く返事をして歩きだした。
「――ッ、先生……」
「頭領……?」
激しい眩暈と嗚咽に右眼を抑えた。
熱い。灼けるように、右眼が熱かった。
「ありがとう」
「A、私は君を独りにはしません」
「銀時達を頼みましたよ」
脳裏を過る松陽の言葉の数々に、嗚呼、と落胆した。
何故今に至るまで忘れてしまっていたというのか。こんなにも大切な記憶の欠片達を。忘れてはならぬと心に決めていたのに。
炎に囲まれながら、Aは脇差に手を置いた。ずるりと引き抜いて刃を見下ろせば、炎に照らされて赤黒くこちらを照らしている。
刀身に、両目が映っていた。
左眼は代赭色。右眼は――縹色を纏っていた。
「……先生、誓うよ、私は。今度こそ守るんだ。彼らを」
両手で柄を握り、ゆっくりと、その切っ先を。
縹色へ。
「――この右眼に誓って」
205人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時